こちらは「おうし座(牡牛座)」の方向約6500光年先の超新星残骸「かに星雲(Crab Nebula)」です。「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。
超新星残骸とは、質量が太陽の8倍以上ある大質量星で超新星爆発が起こった後に観測される天体のこと。爆発の衝撃波が広がって周囲のガスを加熱することで、可視光線やX線といった電磁波が放射されていると考えられています。超新星爆発の後には中性子星やブラックホールといったコンパクトで高密度な天体が残されると考えられていますが、「かに星雲」では超新星爆発にともなって誕生したとみられるパルサー(※)「かにパルサー(Crab Pulsar)」が1968年に見つかっています。
※…点滅するように周期的な電磁波が観測される中性子星の一種。高速で自転する中性子星からビーム状に放射されている電磁波の放出方向が自転とともに周期的に変化することで、地球では電磁波がパルス状に観測されると考えられている。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「Chandra(チャンドラ)」を運用するスミソニアン天体物理観測所のチャンドラX線センター(CXC)は2024年4月24日、チャンドラが22年間にわたって観測し続けてきた「かに星雲」のタイムラプス動画を公開しました。
こちらが公開された動画です。可視光線や赤外線で見た姿とは異なり、チャンドラがX線で捉えた「かに星雲」はパルサーを取り囲む円盤と、その中心から吹き出たジェットで構成されています。動画を再生すると、時間の経過とともに波紋のような円盤の模様や鞭打つようなジェットの形状が変化していることがわかります。
パルサーから吹き出るパルサー風(光速近くまで加速された電子や陽電子の流れ)と超新星残骸が衝突すると衝撃波が形成され、X線や電波などの電磁波が放射されます。これらの電磁波を捉えることで観測される構造はパルサー星雲やパルサー風星雲と呼ばれています。動画で示された「かに星雲」の構造もパルサー星雲の一種で、作成には2000年から2022年にかけてチャンドラで取得したデータが用いられています。
また、チャンドラX線センターからは「カシオペヤ座」の方向約1万1090光年先の超新星残骸「カシオペヤ座A(Cassiopeia A、Cas A)」のタイムラプス動画も公開されています。動画を再生すると、残骸の中心から外側に向かってガスが少しずつ広がり続けていることがわかります。
チャンドラX線宇宙望遠鏡にとって、カシオペヤ座Aは特別な天体です。完成した望遠鏡などで最初に行われる観測は「ファーストライト」と呼ばれていますが、カシオペヤ座Aは1999年7月に打ち上げられたチャンドラがファーストライトを実施した天体なのです。チャンドラはカシオペヤ座Aの観測も継続的に行っていて、この動画の作成には2000年から2019年にかけて取得したデータが用いられているということです。
最後に、ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラで観測されたカシオペヤ座Aの姿を掲載します。ガスが広がる速度を調べた結果、直径約10光年のカシオペヤ座Aを生み出した超新星爆発がもしも観測されていたとすれば、それは今から約340年前のことだったと考えられています。
Source
CXC – NASA’s Chandra Releases Doubleheader of Blockbuster Hits April 24, 2024文・編集/sorae編集部