国立大学法人京都大学と住友林業株式会社は2024年5月28日、共同で開発に取り組んできた木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」の1号機が完成したと発表しました。【最終更新:2024年5月29日16時台】
LignoSatは京都大学と住友林業が2020年4月から開発に取り組んできた1Uサイズの超小型衛星(CubeSat)です。住友林業によると、同衛星は2024年6月4日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に引き渡され、2024年9月に打ち上げが予定されているスペースXの補給船「Cargo Dragon(カーゴドラゴン)」で国際宇宙ステーション(ISS)へ運ばれた後に、ISSの日本実験棟「きぼう」から放出される予定です。
地上から打ち上げた人工物が宇宙ごみ(スペースデブリ)となって地球を周回し続けないように、役目を終えた人工衛星やロケット上段などを大気圏へ再突入させて処分する取り組みが世界各地の宇宙機関や民間宇宙企業などで行われています。ところが、金属を用いているこれらの人工物が大気圏で燃焼すると金属の小さな粒子が生じ、大気圏内を長期間にわたって漂ってしまうと予測されています。2023年10月に発表された研究成果では、成層圏の硫酸エアロゾルに含まれる金属粒子の約10%が人工衛星などに由来すると推定されています。
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住友林業によると、金属の燃焼で生じる粒子は地球の気候や通信に悪影響を及ぼす可能性があるものの、木材であれば大気圏再突入時に燃え尽きるので、金属粒子の影響を軽減する効果が期待できるといいます。また、木材には電磁波や地磁気を透過する性質があるため、アンテナなどの機器を内部に設置することで衛星の構造を簡略化できるメリットもあるといいます。
今回完成した木造人工衛星の開発は、2022年3月~10月にかけて「きぼう」の船外実験プラットフォームで実施された木材宇宙曝露実験や地上での各種試験(振動試験、熱真空試験、アウトガス試験など)を通じて得られたデータをもとに進められました。「きぼう」モジュールでの実験では大きな温度変化や強力な宇宙線にさらされる宇宙環境でも木材の割れ・反り・剥がれなどは生じず優れた強度と耐久性が確認されていて、地上の試験でも宇宙飛行士の健康・安全や精密機器・光学部品などに悪影響を及ぼさないことが明らかになったといいます。
LignoSat1号機の構体には住友林業の紋別社有林で伐採されたホオノキが使用されていて、ネジや接着剤を使わない「留形隠し蟻組接ぎ(とめがたかくしありくみつぎ)」という伝統的な技法を用いて組み上げられたといいます。ISSから放出されたLignoSat1号機は木造構体のひずみ、内部の温度分布、地磁気、ソフトエラーを測定し、京都大学構内の通信局へ送信する予定です。
住友林業は、LignoSat1号機の開発ノウハウと運用データを今後予定されている2号機の設計や計測データを検討する上での基礎資料にするとともに、1号機で得られたデータの解析を通じて木材利用の拡大を目指すということです。
Source
住友林業 – 世界初の木造人工衛星(LignoSat)完成、JAXAへ引き渡し宇宙での運用へ木の可能性を追及し木材利用の拡大を目指す 京都大学 – 世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了~木材用途の拡大、木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して~文・編集/sorae編集部