株式会社アストロスケールは2024年6月14日、同社の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ)」が観測対象のデブリから約50mの距離まで接近することに成功し、定点観測を実施したと発表しました。【最終更新:2024年6月18日15時台】
ADRAS-Jはデブリ除去の新規宇宙事業化を目的とした宇宙航空研究開発機構(JAXA)の取り組みである「商業デブリ除去実証(CRD2)」の実証衛星です。CRD2は大型デブリへの接近・近傍制御と情報取得を実証するフェーズIと、大型デブリの除去を実証するフェーズIIの2段階に分かれています。ADRAS-Jは2022年3月にフェーズIの契約相手方として選定されたアストロスケールが開発と運用を担っています。
日本時間2024年2月18日夜にRocket Lab(ロケットラボ)の「Electron(エレクトロン)」ロケットで打ち上げられたADRAS-Jは、観測対象である「H-IIA」ロケット15号機の上段(2段目、全長約11m・直径約4m・重量約3トン)への接近を開始。4月17日には後方数百mまで接近することに成功していました。H-IIA15号機は2009年1月に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」の打ち上げに使用されたロケットで、同ロケットの上段は大型デブリとなって地球を周回し続けています。
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アストロスケールによると、2024年5月23日にはADRAS-Jをデブリの後方約50mまで接近させることに成功し、定点観測を実施しました。同社によると、民間企業がランデブーおよび近傍運用を通じて実際のデブリに接近した距離としては世界で最も近いとされています。また、JAXAからは連続撮影された画像を使用した動画が公開されています。
【▲ ADRAS-Jの定点観測時に取得された画像を使用した対象デブリの連続画像】
(Credit: JAXA/アストロスケール)
JAXAによると、対象のデブリは重力傾斜トルク(※)によって長軸が地球の中心を向いた直立姿勢になっている(言い換えれば地球の表面に対して直立するような姿勢になっている)ことがすでに確認されていましたが、機軸を中心とした回転もほとんどない状態であり、大きな損傷がないことも定点観測を通じて確認されました。機体の左右に見えている紐状の物体は機体の表面保護用のテープと推定されています。
※…軌道上の細長い物体の各部分に働く重力の差によって生じる、物体の長軸を天体の中心方向へ向けるように作用するトルクのこと。
アストロスケールは引き続きADRAS-Jの運用を継続し、今後は対象のデブリの周回観測や企業側が企画・実施する企業ミッションを行った後に、ADRAS-Jを対象のデブリに衝突しない軌道へと遷移させてミッションを終了する予定です。なお、アストロスケールは大型デブリの捕獲を実証するCRD2のフェーズII契約相手方にも選定されており、捕獲用のロボットアームを搭載する実証衛星「ADRAS-J2」の開発を進めていくということです。
Source
JAXA – 商業デブリ除去実証フェーズI「定点観測」の画像を公開 アストロスケール – アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」、 デブリから約50mの距離にまで接近に成功文・編集/sorae編集部