こちらは「へび座(蛇座)」の方向約1300光年先の反射星雲「Serpens Nebula」です。反射星雲とは、ガスや塵(ダスト)の集まりである分子雲が近くの恒星の光を反射することで輝いて見える星雲のこと。画像の星雲は新たな星が誕生している星形成領域であり、約10万歳の若い星々が密集する星団が存在しています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、2023年3月から4月にかけて行われた観測の結果、この領域の北部(画像左上)で新たな発見がありました。画像の左上の部分を見ると、原始星から双極方向に噴出したジェットが周辺のガスや塵に衝突したことで放出された光が幾つか、赤色の柱として見えています。この“柱”の向き、すなわちジェットの噴出方向は一般的には原始星ごとにさまざまな方向を向いているのですが、ここでは方向がある程度そろっているように見えるのです。
原始星の周囲には周回しながら落下していくガスによって円盤が形成されており、ガスの一部が磁場によって円盤に対して垂直な方向へ放出されることでジェットが形成されると考えられています。STScIのJoel Greenさんを筆頭とする研究チームは、複数の原始星でジェットの向きが揃っている理由について、同じ分子雲から同じ時期に形成されたことで分子雲の回転が受け継がれたからではないかと指摘しています。
研究に参加したアメリカ航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)のKlaus Pontoppidanさんは、分子雲が崩壊して形成された星には同じ向きで回転する傾向があるだろうと長いあいだ予想されてはいたものの、今まで直接的に観測されたことはなかったとコメントしています。ちなみに、この領域の南部(冒頭の画像右下)では北部よりも早い時期に星が形成されたため、ジェットの噴出方向は連星の相互作用などによって時間の経過とともに変化したと考えられており、北部のような一致はみられないといいます。
STScIによると、今回の発見はこの領域の観測における最初のステップに過ぎません。研究者はウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器「NIRSpec」の観測データを用いた化学組成の分析を通じて、水や一酸化炭素といった揮発性物質が星や惑星の形成過程を生き延びる方法を明らかにすることに関心を寄せているということです。
ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したへび座の反射星雲の画像は、STScI、NASA、欧州宇宙機関(ESA)から2024年6月20日付で公開されています。
Source
STScI – First-of-Its-Kind Detection Made in Striking New Webb Image NASA – First of Its Kind Detection Made in Striking New Webb Image ESA – Webb snaps first image of aligned jets from newborn stars ESA/Webb – First of its kind detection made in striking new Webb image Green et al. – Why are (almost) all the protostellar outflows aligned in Serpens Main? (arXiv)文・編集/sorae編集部