2024年7月5日、韓国映画『THE MOON』が公開されます。
38万キロ彼方の月の上でたった一人生き残った韓国初の有人月探査を目指す韓国人宇宙飛行士。そして地球上にいる月探査船の設計者。この2人を軸に様々な人々が絡み合い、エキサイティングな物語が展開されます。
…と、ここまで読まれた方の中には、「あれ?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。韓国でなぜ月探査なの? そして韓国の宇宙開発や月探査ってどうなってるの? そもそも韓国は自国で月探査を行っているの?
宇宙メディアであるsoraeとして、ここでは映画『THE MOON』をよりよく楽しめるように、韓国の宇宙開発と月探査について解説してみました。映画をより楽しむお供としていただければと思います。
■苦闘が続いた韓国の宇宙開発実は、韓国の宇宙開発の歴史はかなり古く、1980年代にまでさかのぼります。1996年には韓国航空宇宙研究院(KARI)が設立されました。映画の中ではKASC(韓国航空宇宙センター)として描かれる組織です。韓国の宇宙開発はここが主導して進められていきます。
ロシアからの技術導入を通したKARIは、2009年には羅老(ナロ)宇宙センターから初のロケット「羅老」を打ち上げますが、軌道投入には失敗。2010年には2号機を打ち上げますが、これも失敗。まさに「産みの苦しみ」を味わいます。
一方で、2013年からは韓国の独自技術で開発を行う次の世代のロケット「ヌリ」の開発が進められます。2021年に1号機が打ち上げられたものの、衛星を軌道に投入させることには失敗しました。2022年8月の2号機打ち上げでようやく成功し、2023年6月には3号機の打ち上げに成功しています。まさに今、韓国の宇宙開発は成長軌道に入ったともいえるでしょう。
そんな中、2024年5月には韓国宇宙庁(KASA)が設立されました。これまで未来創造科学部の下にあったKARIを軸に、各省庁に分散していた宇宙開発機能を統合し、世界でもトップ5の宇宙開発国を目指すというビジョンを掲げています。
KASAの設立は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の公約でもありました。今後の韓国では官民一体となって、さらに宇宙開発が進んでいくでしょう。
そのような韓国の宇宙開発の中で、月探査はどのように進んできたのでしょうか?
実は韓国は、2000年代から月探査構想を持っていました。しかし、おそらくはロケットの開発を優先させることもあり、月探査の具体化は少し遅れて進められました。
2013年には当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領が科学技術育成プランの1つとして月探査計画を策定し、2020年に月に向けて探査機を打ち上げ、2030年には月面ローバーを打ち上げるという計画を立てました。
2015年にはパク大統領がアメリカ航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙センター(アメリカの月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター」の開発元)を訪問するなど、NASAとの宇宙開発に関する協力に向けた体制作りを進めます。
しかしその後、政権が変わることなどによって月探査は迷走し、メディアからも実現性を疑問視する記事が出されるという状況になりました。
しかしそんななかでも開発は着実に進み、計画から2年遅れの2022年、ついに韓国初の月探査機「タヌリ」が打ち上げられます。タヌリ(다누리)は、ハングルで「月を楽しむ」という意味の造語です。なお、打ち上げはアメリカのスペースX社のロケット「ファルコン9」で行われました。
タヌリには、NASAが開発した、月の南極地域の永久影領域を撮影する特殊カメラ「シャドーカム」(ShadowCam)が搭載されています。月の水を探るための装置です。
映画でも月の南極が舞台として出てきます。「シャドーカム」の名前も出てきますので、ぜひ見つけてみてください。
KASAは、2032年の月面着陸、さらには2045年の火星着陸といった野心的計画を描いています。その実現に向けての上り調子の最中に、この映画『THE MOON』が公開されるのです。
映画公開に合わせてて、韓国の宇宙開発、そして月探査について簡潔にまとめてきました。
映画にあるように、韓国が独自の宇宙船で有人月探査船を打ち上げるのはまだまだ先のことになるでしょう。しかし、それに向けて着実に進んでいることは確かです。
また、映画に出てくるNASAとの距離感や、垣間見える「独自開発」「我々の」といった価値観などは、韓国の宇宙開発や月探査の背景や価値観を知る上でも興味深い材料といえるでしょう。
エンターテイメントとしても大作である『THE MOON』。映画を堪能したあと、あるいはその前に、ぜひその背景を知り、さらに「月を楽しんで」みてはいかがでしょうか。
※本稿は映画「THE MOON」のPR記事です。2024年7月5日(金) 新宿バルト9 ほか全国ロードショー、予告編はこちら(YouTube)。
映画公式ウェブサイト: https://klockworx-v.com/moon/
映画公式Xアカウント: @themoon_jp(https://x.com/themoon_jp)
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文/寺薗淳也(月探査情報ステーション 編集長) 編集/sorae編集部