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天の川銀河の新たな伴銀河を2個発見 数が “少なすぎる” から “多すぎる” 問題へ

sorae.jp 2024年7月23日 21時18分

宇宙には大小さまざまな銀河がありますが、小さな銀河である「矮小銀河」の中には他の銀河と重力的に結びついた「伴銀河(衛星銀河)」と呼ばれるものがあります。これまで、天の川銀河(銀河系)の伴銀河については、理論的に予測される数に対して実際に見つかった数が少なすぎるという問題がありました。その理由の1つとして、伴銀河が暗すぎるために観測が困難なことが挙げられていました。

国立天文台の本間大輔氏などの研究チームは、「すばる望遠鏡」の主鏡と超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC、ハイパー・シュプリーム・カム)」を組み合わせて空の広い領域を観測する「戦略枠プログラム(HSC-SSP)」からのデータを分析する作業の最終結果を報告しました。その中で、天の川銀河には新たに「ろくぶんぎ座矮小銀河II(Sextans II)」と「おとめ座矮小銀河III(Virgo III)」という2個の伴銀河の有力候補が存在することが明らかにされました(※1)。

※1…天の川銀河の伴銀河は「○○矮小銀河」ではなく「○○矮小楕円体銀河」と呼ばれることもあります。例えば、今回発見された伴銀河の場合には「ろくぶんぎ座矮小楕円体銀河II」と「おとめ座矮小楕円体銀河III」という別称があることになります。ただし、伝統的に「○○矮小銀河」と呼ばれることが少ない「大マゼラン雲」「小マゼラン雲」、および地球から見て「しし座」にあるいくつかの矮小銀河を除きます。

今回の戦略枠プログラムでは既に3個の伴銀河の有力候補が見つかっており、同じ空の領域ですでに見つかっている4個の伴銀河と合わせると、その数は9個となります。この領域で見つかる伴銀河の数は理論上では3~5個であるため、9個というのは多すぎます。このため、天の川銀河の伴銀河は “数が少なすぎる問題” から “数が多すぎる問題” にシフトしたと言えます。

【▲ 図1: 今回見つかった伴銀河の候補の1つ「おとめ座矮小銀河III」の位置。(Credit: 国立天文台 & 東北大学)】 ■伴銀河の “数が少なすぎる問題” という謎

宇宙には大小さまざまな銀河があり、太陽系が存在する天の川銀河は比較的大きな銀河です。一方で、天の川銀河と比べると非常に小さな銀河である「矮小銀河」も存在し、他の銀河と重力的に結合しているものが多数あります。大きな銀河に結びついている矮小銀河を「伴銀河」と呼びます。天の川銀河では有名な「大マゼラン雲」と「小マゼラン雲」を初めとして、伴銀河がいくつか見つかっています。

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天の川銀河の伴銀河が全部でいくつあるのかは不明ですが、推定する方法はあります。宇宙には光などで観測ができず、重力でのみその存在を知ることができる「暗黒物質(ダークマター)」があるとされています。小さな暗黒物質の塊にガスが集まると、そこで恒星が生まれ、やがて矮小銀河になると考えられます。暗黒物質の塊の数や規模は、宇宙全体を記述するために標準的に使われているモデルである「Λ-CDM(ラムダ-CDM)」で予測可能であるとされています。

【▲ 図2: 今回見つかった2個の伴銀河を含む、天の川銀河の伴銀河の位置を示した3次元地図。(Credit: 国立天文台 & 東北大学)】

ところが、これまでは暗黒物質の塊から理論上推定される伴銀河の数に対して、実際に観測された伴銀河の数が少なすぎる「ミッシングサテライト問題」と呼ばれる問題がありました。理論的には、1000個以上の暗黒物質の塊の中から絶対等級が0以上の規模の伴銀河は220個(220±50個)生成されると予測されますが、実際に見つかっているのは数十個と、大きな開きがあります。この問題の解決には、以下の3通りの理由が考えられます。

1. 理論(Λ-CDM)が間違っており、実際の暗黒物質の塊はずっと少ない。
2. 暗黒物質の塊から恒星が形成される過程の理論に何らかの誤りがある。
3. 暗すぎて観測できていないだけで、まだ見つかっていない伴銀河が存在する。

1や2の場合、これまで様々な検証にパスしてきた理論に修正を加えるという意味で、波及する影響も大きくなります。一方、3の場合は単純に観測技術の問題であるため、はるかに影響は小さくなります。

■新たな伴銀河「ろくぶんぎ座矮小銀河II」と「おとめ座矮小銀河III」を発見

単純に観測された伴銀河の数が少ないという場合、観測状況を解決することで改善される可能性があります。本間氏などの研究チームは、「HSC-SSP」と呼ばれる大規模な観測プログラムで取得された膨大なデータを分析する作業を行いました。このプログラムは、国立天文台がハワイ島のマウナケア山頂に設置した「すばる望遠鏡」の8.2m主鏡と、超広視野主焦点カメラ「HSC」を組み合わせ、空の広い領域を観測するものです。

HSC-SSPのデータを分析する作業は既に始まっており、これまでに伴銀河の有力候補が3個見つかっています(※2)。今回『日本天文学会欧文研究報告』に投稿された論文では、HSC-SSPの分析に関する最終結果が報告されています。

※2…「おとめ座矮小銀河I(Virgo I)」「くじら座矮小銀河III(Cetus III)」「うしかい座矮小銀河IV(Bootes IV)」

この論文では、天の川銀河の伴銀河の有力候補が新たに2個見つかったことが報告されました。それぞれ「ろくぶんぎ座矮小銀河II」と「おとめ座矮小銀河III」と名付けられたこれらの伴銀河は、いずれも見た目の明るさは20等級以下であり、地球からの距離はろくぶんぎ座矮小銀河IIが約41万光年、おとめ座矮小銀河IIIは約49万光年であると推定されています。

【▲ 図3: HSC-SSPで観測された空の領域(赤枠)には、観測開始以前に見つかっていたものを含めて9個の伴銀河が見つかっています。これは理論に対してあまりにも多すぎます。(Credit: 国立天文台 & 東北大学)】

それでは、今回の最終報告を受けて、ミッシングサテライト問題はどのようになったのでしょうか? 今回の研究以前に、同じ空の領域では既に4個の矮小銀河(※3)が見つかっています。今回の有力候補を足せば9個となりますが、実はこの数には問題があります。この空の領域で見つかる伴銀河の数は、理論的には3~5個(3.9±0.9個)のはずであり、9個というのはあまりに多すぎるのです。

※3…「ろくぶんぎ座矮小銀河(Sextans)」「しし座IV(Leo IV)」「しし座V(Leo V)」「ペガスス座矮小銀河III(Pegasus III)」

■伴銀河の謎は “数が多すぎる問題” へとシフト

今回の、伴銀河が多く見つかったこと自体は嬉しいニュースです。暗黒物質の量の推定に使われてきたΛ-CDMモデルに大きな問題はないことを示し、ミッシングサテライト問題が解決するからです。しかし、今回までに見つかった伴銀河の数からすると、天の川銀河の伴銀河の総数は220個ではなく、少なくとも500個にまで増えてしまいます。つまり、伴銀河の数は “数が少なすぎる問題” から “数が多すぎる問題” へとシフトしたと言えます。

現状では、なぜこれほどまでに伴銀河が多いのか、その理由までは分かっていません。1000個以上の暗黒物質の塊から、ある程度の重さを持つ矮小銀河が生成されるまでの過程を予測する現状のモデルについて、仮定された数値に大きな誤りがあるのか、もしくは想定していない未知の物理過程があるのかもしれません。この解決には、さらなる観測と研究が必要となります。

現在チリに建設中の「ヴェラ・C・ルービン天文台」では、さらに暗い伴銀河の発見が期待されています。新たな伴銀河の発見が、矮小銀河の形成に関する理論モデルの修正に役立つかもしれません。

 

【訂正】「※2」のおとめ座矮小銀河の記載に誤りがありましたので修正させていただきました。(2024年7月26日21時)

Source

Daisuke Homma, et al. “Final results of the search for new Milky Way satellites in the Hyper Suprime-Cam Subaru Strategic Program survey: Discovery of two more candidates”. (Publications of the Astronomical Society of Japan) (arXiv) “天の川銀河に予測を超えた多くの衛星銀河を発見!”(すばる望遠鏡)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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