こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Curiosity(キュリオシティ)」に搭載されているカメラ「Mastcam」を使って2024年6月7日(Curiosityのミッション4208ソル目※)に撮影された画像です。幅約13cmの範囲に集まっている岩石の破片の隙間に、黄色い石のようなものが幾つも見えているのがわかりますでしょうか?
※…1ソル(Sol)=火星での1太陽日、約24時間40分。
Curiosityを運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)によると、同探査車に搭載されているアルファ粒子X線分光計(APXS)を使って分析した結果、この黄色い物体は元素状硫黄の結晶であることが確認されました。火星には硫黄を含む化合物である硫酸塩が存在することはすでに知られていましたが、純粋な硫黄の結晶が見つかったのは今回が初めてだとされています。
JPLによると、この岩石は撮影日から1週間ほどさかのぼった2024年5月30日に、その上をCuriosityが走行したことで割れて硫黄の結晶が現れました。JPLは火星探査ミッションの過程で見つかった特徴的な岩石などに名前をつけていますが、この岩石もアメリカ・カリフォルニア州のシエラネバダ山脈にある湖にちなんで「Convict Lake(コンビクト・レイク)」と命名されています。
Curiosityは2012年8月、火星のゲール・クレーター(Gale、直径154km)に着陸しました。2014年からはクレーターの中央にそびえるアイオリス山(シャープ山、クレーター底からの高さ約5000m)を少しずつ登りながら探査活動を行っています。
2024年2月にCuriosityは「Gediz Vallis Channel(ゲディズ渓谷流路)」と呼ばれる地域に到着しました。この地域はアイオリス山の山裾を蛇行しながら下る河川の跡のように見える場所で、底にたまった堆積物によって尾根状の地形が形成されています。Convict Lakeはそのような場所で見つかりました。似たような白い色合いの岩石は辺り一面で見つかっているといい、そのすべてに硫黄が含まれていると考えられています。次の画像はそのうちの1つで、「Snow Lake(スノー・レイク)」と命名されています。
ゲール・クレーターはかつて湖があったと考えられている場所です。JPLによると、すでに見つかっている火星の硫酸塩は数十億年前に水が干上がった時に形成されたと考えられていますが、今回見つかった硫黄の結晶がどのようなプロセスで形成されたのかはまだわかっておらず、Curiosityの運用チームは他の岩石や周辺の地域で手がかりを探しています。
Curiosityのプロジェクトサイエンティストを務めるJPLのAshwin Vasavadaさんは「純粋な硫黄でできた石が集まっている場所を見つけるのは、砂漠でオアシスを見つけるようなものです。そこにあるはずがないものですから、私たちはその理由を説明しなければなりません。奇妙で予想外な発見は惑星探査をエキサイティングなものにしています」とコメントしています。
Source
NASA/JPL – NASA’s Curiosity Rover Discovers a Surprise in a Martian Rock文・編集/sorae編集部