こちらは「おうし座(牡牛座)」の方向約6500光年先の超新星残骸「かに星雲」です。超新星残骸とは、質量が太陽の8倍以上ある大質量星で超新星爆発が起こった後に観測される天体のこと。爆発の衝撃波が広がって周囲のガスを加熱することで、可視光線やX線といった電磁波が放射されていると考えられています。
「かに星雲」は1731年にイギリスのジョン・ベヴィスによって発見されました。18世紀にフランスの天文学者シャルル・メシエが星雲や星団をまとめた「メシエカタログ」では「メシエ1(Messier 1、M1)」として1番目に収録されています。20世紀に入ると1054年に観測された超新星との関連性が明らかになり、この超新星の残骸だと考えられるようになりました。
この画像は、アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「Chandra(チャンドラ)」の打ち上げ25周年を記念して公開された25天体の画像のうちの1つです。X線は人間には見えない波長の電磁波なので、チャンドラの観測データはX線の強度に応じて着色されています(青紫と白)。また、この画像ではX線偏光観測衛星「IXPE」が捉えたX線の観測データ(紫)と、「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」が捉えた光学観測データ(赤、緑、青)も使用されています。
X線で捉えた「かに星雲」は可視光線で見た姿とは異なり、中心にあるパルサー「かにパルサー」(※)を取り囲む円盤と、その中心から吹き出たジェットで構成されています。パルサーから吹き出ているパルサー風(光速近くまで加速された電子や陽電子の流れ)が超新星残骸に衝突すると衝撃波が形成されて、X線や電波などの電磁波が放射されます。これらの電磁波を捉えることで観測される構造はパルサー星雲やパルサー風星雲と呼ばれています。
※…点滅するように周期的な電磁波が観測される中性子星の一種。高速で自転する中性子星からビーム状に放射されている電磁波の放出方向が自転とともに周期的に変化することで、地球では電磁波がパルス状に観測されると考えられている。
なお、チャンドラはパルサー星雲としての「かに星雲」を長年観測し続けており、2000年から2022年にかけて取得したデータを使ったタイムラプス動画も以前に作成・公開されています。
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・X線宇宙望遠鏡が見た超新星残骸「かに星雲」&「カシオペヤ座A」のタイムラプス(2024年4月29日)
チャンドラの打ち上げ25周年を記念して作成された「かに星雲」の画像は、NASAやチャンドラを運用するスミソニアン天体物理観測所のチャンドラX線センター(CXC)から2024年7月22日付で公開されています。
Source
NASA – 25 Images to Celebrate NASA’s Chandra 25th Anniversary CXC – 25 Images for Chandra’s 25th: 25 Images to Celebrate!文・編集/sorae編集部