遠くの惑星に地球外文明が存在する場合、私たちはそれを見つけることはできるのでしょうか? 現在の技術でも検出可能な方法はいくつか提唱されていますが、その多くは文明とは無関係に発生する信号との誤認の可能性が常にあります。
カリフォルニア大学リバーサイド校のEdward W. Schwieterman氏などの研究チームは、地球外文明が惑星を意図的に温暖化させるために、自然界にはほとんど存在しない温室効果ガスを使用している可能性に言及し、これが文明の存在を示唆する「テクノシグネチャー(Technosignature)」として観測可能であるかどうかを考察しました。
地球から約40光年離れた位置にある太陽系外惑星の大気に対してシミュレーションした結果、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の観測能力ならば低濃度の温室効果ガスを十分な精度で検出可能であることが分かりました。今回の研究で対象とした温室効果ガスは、自然界では容易に発生しないものであるため、もし捉えられればとても興味深い結果となるでしょう。
もし近くの惑星に地球外文明があるとした場合、私たちはそれを見つけることはできるのでしょうか? 真っ先に思いつくのは電波の意図的な通信(アクティブSETI)ですが、私たち自身があまり頻繁に行っていない以上、相手方も同じことをしているとは限りません。このため、意図せずとも漏れだす情報から、文明の兆候を示す信号の探索を行う研究も進められています。
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模索されている手段の1つとして、大気成分を調べるという方法があります。地球から見て恒星の手前を惑星が通過すると、惑星の大気を通過して届く光を観測することができます。大気中に含まれる分子は、その種類に応じた特定の波長の光を吸収するため、地球に届いた恒星の光の中には、特定の波長が他の波長と比べて暗くなる「吸収スペクトル」が現れます。吸収スペクトルから逆算することで、大気に含まれる分子を推定することができます。また、大気を通過した光だけでなく、惑星からの反射光を観測することでも吸収スペクトルが得られます。
例えば、惑星に生命がいる場合、生命活動の結果として酸素、オゾン、メタン、亜酸化窒素などを大気中に大量に放出するかもしれません。これら「バイオシグネチャー」を検出し、生命を宿す惑星を探索する試みもあります。しかし多くのバイオシグネチャーは、生命が関与しない化学反応でも生成されうるため、ただ見つかったというだけでは証拠としては不十分です。
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バイオシグネチャーの概念をさらに発展させた「テクノシグネチャー」という考え方もあります。電波を観測することもテクノシグネチャーであると言えなくもないですが、大気中の分子にも同じ考えが適用されます。工業生産での生産品や、副産物として廃棄される分子の中には、自然界や生命活動ではほぼ生成されないものも含まれます。もしこのような分子を大気中で発見すれば、それは人工的な分子を作るだけの高度な技術を持つ文明の兆候かもしれません。これがテクノシグネチャーの概念です。
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Schwieterman氏らの研究チームは、大気中に含まれる温室効果ガスが、テクノシグネチャーとして使えるのではないかと着目しました。温室効果ガスは地球では厄介な問題ですが、気温の低い惑星を温める手段としては有用性があります。火星のテラフォーミングで使用が検討されているように、地球外文明も他の惑星を開拓することや、差し迫った寒冷化の対策として意図的に温室効果ガスを排出する可能性は十分に考えられます。
今回の研究では、温室効果ガスの中でも「四フッ化炭素(CF4)」「六フッ化エタン(C2F6)」「八フッ化プロパン(C3F8)」「六フッ化硫黄(SF6)」「三フッ化窒素(NF3)」の5種類を大気中から検出可能かどうかを検討しました。これらの分子はどれも、二酸化炭素やメタンの数百倍から数万倍という、強力な温室効果があることで知られています。また、これらは自然環境でほとんど合成されない分子のため、これらが検出されるほど高濃度に存在する大気が、何の文明の介在もなく自然に存在する可能性は低いと考えられます。
さらにこれらの分子は極めて安定であり、大気中に長く存在します。これは利用する側にとって、頻繁に補給しなくても良いというメリットであるだけでなく、観測する私たちにとってもメリットとなります。大気に含まれる微量成分の観測は、1回の観測だけで十分なデータが得られることは稀であり、普通は数ヶ月から数年の間隔を空けて複数回に分けて行われます。例えば、一般的なフロン類は数ヶ月程度の寿命しかないため、複数回の観測の間に消えてしまう可能性も考えられます。
また、これらの分子はオゾン層を破壊する状態へと変化することが稀であるという特徴があります。酸素が豊富な大気では、有害な紫外線を遮断するオゾン層が発生するため、地球外文明が私たちと同じくオゾン層への影響を気にする可能性は十分に考えられます。
■ウェッブ宇宙望遠鏡は意図的な温室効果ガスを観測できる!Schwieterman氏らは、大気中に先述の分子が含まれている場合、現在の技術でも観測可能かどうかを検討するため、モデルとして太陽系外惑星「TRAPPIST-1f」を選び、検証を行いました。TRAPPIST-1fは地球から約40.7光年離れた位置にある太陽系外惑星ですが、地球よりも寒い環境にあるため、生命が生存するのに適する環境は惑星全体のわずかな範囲に留まると推定されます。もしTRAPPIST-1fに高度な文明があれば、住むことのできるエリアを拡大するために、温室効果ガスで気温を上げることは十分に考えられます。
Schwieterman氏らは、TRAPPIST-1fの大気中に、先述の5種類の分子が様々な濃度と組み合わせで存在していると設定し、ウェッブ宇宙望遠鏡でそれが観測可能であるのかを検討しました。温室効果ガスが温室効果を持つのは、熱の源である赤外線を吸収するためであるため、地球で観測できる大気由来の光は、赤外線の波長に吸収スペクトルが現れることになります。そしてウェッブ宇宙望遠鏡は感度の高い赤外線望遠鏡なため、この観測に適していると考えられます。
その結果、TRAPPIST-1fの大気を通過・反射した光を数回から数十回観測すれば、十分な精度で検出可能であることを示しました。これらの温室効果ガスがわずか0.0001%(1ppm)しか含まれていない設定でも観測可能であるというのは非常に驚きです。
もちろんこれは、それがあれば検出できるという可能性を示しただけですが、それでも現在の技術で観測できる可能性があるというのは興味深い点です。Schwieterman氏らは、この研究結果が、ウェッブ宇宙望遠鏡の性能がいかに高いかを示す一例であると述べています。
Source
Edward W. Schwieterman, et al. “Artificial Greenhouse Gases as Exoplanet Technosignatures”. (The Astrophysical Journal) Jules Bernstein. “Telltale greenhouse gases could signal alien activity”. (University of California, Riverside)文/彩恵りり 編集/sorae編集部