現代は人工知能(AI)によって作成された画像が広く流通し、一般の人々でも入手や使用が可能な時代を迎えています。そのためフェイク画像を見分ける方法は喫緊の課題となっています。特に人物のディープフェイク画像を検出する方法は重要性が増しています。
2024年7月にイギリスのハル大学(University of Hull)で開催された王立天文学会の全国天文学会議で興味深い研究成果が発表されました。それは画像に映された人物の目を見るだけでフェイク画像かどうか見分けることができるというものです。
ハル大学大学院の修士課程に在籍するAdejumoke Owolabi氏による本研究の核心は人の左右の眼球に映る反射です。左右の反射が一致すれば、その画像は本物の人間のものである可能性が高く、一致しなければ、AIによるディープフェイク画像である可能性が高いとのこと。
さらにユニークなのは、実際の画像とAIが作成した画像で、人間の眼球に反射する光の分析を行った後、天文学で使用される銀河の形態を測定する手法を用いて反射を定量化し、左右の眼球の反射の一貫性をチェックしたことです。
「左右の眼球の反射は本物の人物では一致していますが、偽物の人物では(物理学の観点から)不正確です」とハル大学の天体物理学教授で、データサイエンス、人工知能、モデリングの卓越センター所長のKevin Pimbblet氏は語っています。本物の画像は通常、両目に同じ反射が見られますが、フェイク画像は、両目の反射に一貫性がないことが多いと言うのです。
天文学者は銀河の形態を測定するために、中心がコンパクトかどうか(集中度:concentration)、対称性があるかどうか(非対称性:asymmetry)、そしてどれだけ滑らかであるか(滑らかさ:smoothness)の三つの観点を分析します。
同様に本研究でも左右の眼球の反射を自動的に検出し、その形態学的特徴である「CAS(集中度、非対称性、滑らかさ)」を調査しジニ指数(※)に当てはめて、左右の眼球の類似性を比較しました。
※…ジニ係数:データの不均等さを表す統計値。係数が取り得る値の範囲は0から1で、値が大きいほどその集団における格差が大きい状態であると評価される。
調査結果から、ディープフェイク画像には両目の間にいくつかの違いがあることがわかったとのこと。一方で、本物の画像では両目の間にほぼ一貫性のある反射が見られるとしています。
ジニ係数は通常、銀河の画像に含まれる光の画素がどのように分布しているかを測定するために使われます。この測定は、銀河の画像を構成する画素を光束の小さい順に並べ、完全に均等な光束分布から予想される結果と比較することによって行われます。
ジニ係数の値が0ならば、光が画像のすべての画素に均等に分散されている銀河であり、値が1であれば、すべての光が1つの画素に集中している銀河になります。
研究チームはまた、もともと銀河の光の分布を測定してその形態を判断するために天文学者によって開発されたツールである「CASパラメータ」もテストしましたが、目のフェイク画像を予測するのには役立たないこともわかりました。
Pimbblet教授によれば、本研究で用いられた方法でフェイク画像を確実に検出できるわけではなく、本物と偽物を誤って判別することもあると注意を促しています。しかし、ディープフェイクを検出する方法の導入競争に当たって、本研究はその計画の基盤を提供してくれると結んでいます。
本記事は2024年7月17日付けで王立天文学会(Royal Astronomical Society)の「News & Press」に掲載された記事「Want to spot a deepfake? Look for the stars in their eyes(ディープフェイクを見つけたい? 彼らの目の中にある星を探そう)」を再構成したものです。
Source
Royal Astronomical Society - Want to spot a deepfake? Look for the stars in their eyes文/吉田哲郎 編集/sorae編集部