オランダ電波天文学研究所(ASTRON)のCees Bassaさんを筆頭とする研究チームは、アメリカの民間宇宙企業SpaceX(スペースX)が運用している衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」の通信衛星について、第2世代の衛星(Starlink V2 Mini)では第1世代と比較して不要電磁波放射(Unintended Electromagnetic Radiation: UEMR)が大幅に増加していることが明らかになったとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文はAstronomy & Astrophysicsに掲載されています。
UEMRとは意図的ではない電磁放射のことで、簡単に表現すれば“漏れ出た電波”と言えます。研究チームはASTRONが運用する電波望遠鏡「LOFAR(Low Frequency Array)」を使用して2024年7月19日に1時間の観測を2回実施しました。観測されたのは海外のFMラジオ放送で使用される周波数帯のすぐ外側(10~88MHzおよび110~188MHz)です。
観測の結果、第1世代と第2世代のStarlink衛星ほぼすべてからUEMRが検出されました。研究チームが分析を行ったところ、第2世代Starlink衛星のUEMRは第1世代と比べてより広い範囲の周波数で放射されており、その強さは第1世代に対して最大で32倍に達することが明らかになったといいます。Bassaさんは「LOFARで観測する最も暗い天体と比較して、Starlink衛星からのUEMRは1000万倍も明るいです。これは肉眼で見える最も暗い星と満月の明るさの差に相当します。SpaceXは毎週約40機の第2世代Starlink衛星を打ち上げているため、この問題はますます悪化しています」とコメントしています。
【▲ 波長5m(周波数60MHz)の電波で観測されたLOFAR観測所上空の様子を示した動画】
左は実際のデータ、右は電波強度の変化を示しており、太陽(Sun)、カシオペヤ座A(Cas A)、はくちょう座A(Cyg A)、おとめ座A(Vir A)には注釈が付けられている。移動する赤い十字は公開されている軌道要素をもとに推定されたStarlink衛星の位置で、連動して移動する電波源が捉えられていることがわかる。
(Credit: ASTRON)
SpaceXは最終的に最大4万2000機のStarlink衛星を打ち上げる計画を立てていますが、複数の衛星を連携させる衛星コンステレーションの構築は他の民間企業などでも進められています。衛星コンステレーションといえば反射光による光害(ひかりがい)がもたらす光学観測への影響が特に懸念されおり、SpaceXも反射光を低減する措置を講じてきましたが、Bassaさんたちは続々と打ち上げられている第2世代のStarlink衛星から放射されたUEMRの検出と分析を通じて、電波観測でも影響が懸念されることを改めて示しました。
今回のBassaさんたちの研究内容を紹介したASTRONは、今から10年後には軌道に投入された衛星の数が10万機を超える可能性があり、地球低軌道を周回する衛星からの電波放射の増加は今後の天文学の研究活動に対する深刻な懸念を引き起こしていると指摘。宇宙とその中における私たち人類の位置付けを理解するために不可欠な電波天文学を守る上で、今回の研究は人工衛星からのUEMRに関する規制を厳格化する必要性を強調するとともに、衛星の技術進歩に直面した天文学の未来を守るための行動を促す警鐘も鳴らしていると述べています。
Source
ASTRON - Second-Generation Starlink Satellites Leak 30 Times More Radio Interference, Threatening Astronomical Observations Bassa et al. - Bright unintended electromagnetic radiation from second-generation Starlink satellites文・編集/sorae編集部