地球の衛星の「月」は、公転するに従って見た目の明るさを大きく変えます。この明るさは野生動物の行動にも影響することが分かっていますが、その証拠の確かさはまちまちです。
テキサスA&M大学の元学生の飯尾健太郎氏と教授のDominique Lord氏は、アメリカ・テキサス州での約10年間の統計情報から、満月の夜の野生動物と車との衝突事故は、新月の夜と比較して45.80%も増加することを明らかにしました。特に農村部は、都市部と比べて顕著な増加を示しました。
この研究は動物の行動に焦点を当てておらず、研究者も動物行動学の専門家ではないため、衝突事故が増えた正確な原因や背景は明らかにされていません。しかしこの研究は、満月で明るい夜には、たとえ見通しが良かったとしても、ドライバーは周辺に気を配るべきであることを示唆しています。
地球の衛星の「月」は、見た目の明るさや形が変化する満ち欠けを約1か月周期で繰り返します。特にマイナス12.6等級に達する満月の夜は、周りが十分認識できるほどの明るさとなります。
月の明るさの変化は、動物の行動に影響を与えることが分かっています。特に一部のサンゴ、環形動物、魚類では、産卵・交尾・ホルモン分泌など、生殖活動の時期が月の明るさで調整されていることが分かっています。しかしその他の動物の行動と月の明るさの関連性は、あまり多くのことは分かっていません。影響があると主張する研究と、それに反論する研究とがお互いに次々出てくることも珍しくありません。
満月の夜は野生動物と車との衝突事故が増加すると判明テキサスA&M大学の飯尾氏とLord氏の研究チームは、野生動物と車との衝突事故が、月の満ち欠けによって変化するかどうかを調査しました。このアプローチの研究は少数ながら存在するものの、結果がまちまちである他、調査期間が短かったり、曜日に偏りがあったりするなどの問題がありました。
両氏は今回、大学のあるアメリカ・テキサス州の統計情報に基づいた調査を行いました。対象となったのは、2011年1月から2020年1月までの約10年間、112回の新月および満月の日に起きた車の衝突事故です。両氏はテキサス州をいくつかの地域(※1)に分けた統計情報を、野生動物との衝突、およびそれ以外との衝突とを区別して分析しました。満月と新月の日のみとしたのは、満月以外の月は夜空に昇っていない時間があるため、時間帯の影響を無視できなくなるからです。
※1…テキサス州会計監査官が定義した経済的な地域区分に基づく。
その結果、満月の夜の野生動物と車との衝突事故は、新月の夜と比較して45.80%も増加していることが分かりました。野生動物以外との衝突事故は、満月と新月で大きな差が見られなかったことを考えれば、これは大きな違いです。特にこの増加傾向は、都市部よりも農村部で顕著であり、ハイプレーンズ、南テキサス、中央テキサス、アッパーイーストでは57.8~125%の増加という顕著な傾向がありました。
農村部は光害があまりなく、月の満ち欠けは夜の明るさを大きく変化させます。一方で都市部では人工の明かりが多いため、夜の明るさの変化は少ないと考えられます。両氏は、農村部での衝突事故の増加は、月の明るさと事故のリスクに関連があることを示唆する証拠ではないかと考えています。
研究結果の解釈には限界ありただし両氏は、この研究に限界があることも認めています。例えば農村部は都市部と比べて野生動物が多く、その分だけ衝突事故の件数が増えるため、統計的に有意な相関があるように見えているだけかもしれません。
また、仮にこの研究が示唆するように、満月の明るさが野生動物の行動を変化させているとしても、その理由は不明です。新月の時と比べれば、満月は周りが明るく見通しが効くため、野生動物の行動がより大胆になるのかもしれません。しかし両氏は動物行動学の専門家ではなく、また今回の研究では動物の種類を区別していないため、この推定が妥当かどうかはわかりません。
ただし、今のところは、この研究は車のドライバーが心がけるべき情報を与えるものであると捉えることができます。満月の夜は普段よりも明るいですが、それでも十分暗いです。多少の明るさに惑わされず、慎重な運転を心がけるべきでしょう。
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Source
Kentaro Iio & Dominique Lord. “Does wildlife-vehicle collision frequency increase on full moon nights? A case-crossover analysis”. (Transportation Research Part D: Transport and Environment) Justin Agan. “Vehicle Collisions With Wildlife Increase During The Full Moon”. (Texas A&M University)文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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Last Updated on 2024/10/26