アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は2024年10月17日付で、火星の表面から比較的浅いところで光合成を行う生物が生存し得る可能性を検討したJPLのAditya Khullerさんを筆頭とするチームの研究成果を紹介しています。研究チームによると、鍵となるのは火星の表面付近に埋蔵されている塵が混じった氷。火星には水の氷と二酸化炭素の氷(ドライアイス)がありますが、今回注目されているのは水の氷です。
表面下の氷が溶けた場所で微生物が生存できる可能性を示す現在の火星は大気が希薄(気圧は地球の約0.6%)で乾燥しているため、表面に露出した水の氷は昇華してしまうと考えられています。また、オゾン層がある地球とは違って火星の表面には有害な紫外線が地球と比べて約30%多く到達するといい、少なくとも地球の生命にとっては過酷な環境です。しかし研究チームは、塵が混じった氷の中、より正確には氷が部分的に溶けてできた“水たまり”の中であれば、生命が生存できるかもしれないと考えています。
JPLによると、火星の水の氷は古代の火星で降った雪が塵と混ざりながら長い年月をかけて固まったとされるもので、今も塵が含まれています。塵は氷と比べて暗い色をしているので、氷よりも太陽光を吸収しやすい性質があります。火星の表面では昇華してしまう水の氷も、太陽光を吸収した塵の周囲が温められることで、表面下では部分的に溶けている可能性があるというのです。
研究チームの試算によると、火星の表面に露出した氷の内部では、DNAを損傷しない程度に紫外線は減衰するが光合成は行えるくらいに太陽光が浸透する深さの範囲で微生物が生存できる可能性があるといいます。その深さは塵を0.01~0.1%含む氷では表面下数cm、よりきれいな氷では最大で表面下数mまで。表面下に“水たまり”が形成され得る場所として特に有望なのは、火星の中緯度(緯度30~60度)で表面に露出した氷だとされています。
氷が溶ける期間は短くても微生物は生存しているかもしれない地球の氷河ではシアノバクテリアや鉱物などが集まった「クリオコナイト(cryoconite)」と呼ばれる黒い色の粒子が太陽光を吸収し、氷を溶かすことで「クリオコナイトホール(cryoconite hole)」と呼ばれる水のたまった穴が形成されることが知られています。
氷の蓋で大気から隔離されたクリオコナイトホールの水たまりの中、氷点を上回る期間が1年のうち数日あれば生存できるというシアノバクテリアなどを例に、氷は必ずしも火星の1年を通して溶けている必要はなく、わずかな期間でも溶ければ微生物は生存できると研究チームは考えています。
近い将来の火星探査ミッションとしては、ドリルを使って地下2mからサンプルを採取できる欧州宇宙機関(ESA)の火星探査車「Rosalind Franklin(ロザリンド・フランクリン)」が2028年に打ち上げられる予定です。ただ、着陸予定地点のオクシア平原は北緯20度付近の低緯度にあるため、今回の研究で有望とされた中緯度の地域からは離れています。
表面に露出した氷の下にできた水たまりに生命が存在し得る可能性を示した今回の研究は、将来の火星探査ミッションを立案する上で大きな影響を与えるかもしれません。
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Source
NASA/JPL - Could Life Exist Below Mars Ice? NASA Study Proposes Possibilities Khuller et al. - Potential for photosynthesis on Mars within snow and ice (Communications Earth & Environment)文・編集/sorae編集部
#火星 #生命探査
Last Updated on 2024/11/02