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“天文学的” な罰金「200溝ドル」を実際に払おうとするとどうなるのか?

sorae.jp 2024年11月6日 23時17分

「天文学的数字」とは、巨大な数に対する比喩表現としてよく使われますが、全く天文学と関係のない分野で、天文学の範疇に収まる巨大な数が出てくることは珍しいです。

ロシアの裁判所は2024年10月末、アメリカのインターネット企業「Google」に対し、動画配信サービスを提供する子会社「YouTube」がロシアの17の放送局チャンネルをブロックしているとして2澗ルーブル(約200溝ドル・約3澗円)の罰金を支払うよう命じました。

むろん、時価総額が約2兆ドルのGoogleが200溝ドルの罰金を支払うには長い年月がかかり事実上不可能ですが、では実際にそれほどの金額を一括払いできたらどうなるのでしょうか?本記事では実際に200溝ドルを1ドル紙幣で支払おうとした場合にどうなるのかを考察します(貨幣を1ドル紙幣とした理由は記事末尾の注釈※1を参照)。

天文学的な罰金はなぜ現れたか

この記事にたどり着いた人は、おそらく他のメディアにて同じ話題のニュースを参照したでしょう。簡単に言えば、この天文学的な金額は以下のような方法で算出されています。

1. ロシアの放送局に関連するYouTubeのアカウントを9か月以内に復旧させない限り、その日を過ぎてから罰金を科す。
2. 罰金は10万ルーブル(約1000ドル・約15万円)を基本とする。
3. 罰金の支払いがない場合、毎週2倍ずつ罰金は増えていく。

特に3番目の性質から、複利の罠によって罰金は雪だるま式に増えていきます。報道ではキリよく2澗ルーブル、あるいは200溝ドルという金額が掲載されていますが、これは105週間(約2年)罰金の支払いをしない場合に達する金額です(※2)。日本においてはルーブルよりドルの方が知名度がある、あるいはアメリカのGizmodoの報道を翻訳したものがSNS上で拡散されたせいか、2澗ルーブルよりも200溝ドルの方が数値として参照されます。

この数字は、Googleの名前の由来である巨大な数「グーゴル(Googol)」よりははるかに小さいです。1グーゴルは10の100乗、つまり1の後にゼロが100個つく101桁の数であり、1グーゴルと比べれば、200溝ドルという35桁の罰金ははるかに少ないためです。

【▲ 図: 200溝ドルは想像以上に大規模な金額です。(Credit: 彩恵りり)】

とはいえ、時価総額が約2兆ドルのGoogleの資産を全て投げ打っても焼け石に水であり、国際通貨基金が推定した世界全体の経済規模約110兆ドルでも足りません。地球全体の金(通貨ではなく元素の方)を、それも地表だけでなく中心核に含まれている物も全て掘り出したとしても、総額は約140垓ドル(※3)であり、地球型惑星をあと1400億個ほどすりつぶさなければなりません。全人類1人1人が5000兆円=約33兆ドルを持っていたとしても2700垓ドルであり、200溝ドルを満たすには「370秭円欲しい!」と叫ぶべきでしょう。

到底支払うことが不可能なほど高額な罰金は、その正確な額よりも象徴的な意味合いを持たせていることを、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官も認めています。しかし、仮にこの罰金を、全て1ドル紙幣で一括払いができたとしたらどうなるでしょうか?

天文学的な罰金は文字通り天文学的なスケール

200溝ドル分、つまり200溝枚の1ドル紙幣(※4)は、縦に積み重ねた場合の厚さが230兆光年にも達します。これは観測可能な宇宙の直径である930億光年よりもはるかに長い規模となります(※5)。地球の陸地全てを紙幣の置き場所にしても、厚さは150光年に達してしまいます。

このような大量の紙幣を、地球で印刷することは不可能です。なぜなら紙幣の重さだけで地球の340万倍もの重さがあるためです。それどころか、太陽の10倍もの質量があるために、太陽系の全ての物質を使っても印刷ができないことになります。仮に太陽系の外から物質を調達し、200溝枚の1ドル紙幣を集めた場合、その塊は自らの重力で “ドル紙幣星” を作ることになります。

この先は筆者の思考実験的な部分もあるため、もしかしたら違うかもしれません。ドル紙幣星は、紙幣に含まれる水素によって核融合反応が発生し、恒星と化すと予測されます。ただし、通常の恒星は約4分の3が水素でできているのに対し、ドル紙幣星は6%しか水素が含まれていません。本来この質量の恒星は、太陽より高温で青白く輝くと予測されますが、ドル紙幣星は太陽よりずっと低温の、暗くて赤っぽい恒星となるでしょう。一方で質量が太陽の10倍もあるため、やがて超新星爆発を起こし、中性子星を残すと考えられます(※6)。

いずれにしても、罰金の支払いのためにドル紙幣星をロシアどころか、地球の近くに配置しない方がいいでしょう。ドル紙幣星から受ける潮汐力によって地球が粉々に破壊されるためです。質量が太陽より大きいため、太陽系の中心は太陽からドル紙幣星へとシフトし、太陽はドル紙幣星の伴星となります。地球以外の天体の運命は、公転軌道が大幅に変更されるので不確定ですが、ドル紙幣星ないし太陽へと墜落するか、太陽系ならぬ “ドル紙幣星系” から放り出される運命をたどる天体が多数発生するでしょう。

200溝ドルという天文学的な金額は、比喩ではなく事実として天文学的な数字であると言えそうです。

注釈

※1…ルーブル紙幣の最低額は5ルーブルですが、滅多に流通しません。広く流通しているルーブル紙幣の最低額は50ルーブルとなりますが、約0.5ドルであるため、1ドル紙幣とほぼ変わらない結果となります。一方でドル紙幣は一般流通している100ドル紙幣、発行を停止した1万ドル紙幣、連邦準備銀行のみが所有を認められている10万ドル紙幣など、上限の定めが曖昧なため、キリの良い数字である1ドル紙幣としました。そして後述する通り、有機物である紙幣は、金属である硬貨よりもやや興味深い結果が得られます。

※2…100000×2の104乗。

※3…中心核を含めた地球全体の金の総量は1600京トンと推定されています。ここでは1トロイオンス当たり2690ドルで計算しています。

※4…以下の計算では、1ドル紙幣は66.3×156.0×0.11mm(2.61×6.14×0.0043インチ)、重さ1gのセルロースの塊(実際にはリネン25%・木綿75%)であると見なします。

※5…観測可能な宇宙の外側はどのようになっているのかはっきりとは分かっていませんが、大多数の天文学者は、外側にも相変わらず宇宙は続いていると考えています。その大きさには諸説あるものの、いずれにしても厚さ230兆光年のドル紙幣の “束” を収めるには十分な大きさがあると考えるのが妥当と見られています。

※6…ドル紙幣星の寿命ははっきりしません。ドル紙幣星は非常に重い割に、通常の恒星より平均的な水素の割合が少ないためです。質量の大きさと水素の少なさから、太陽の10倍の質量を持つ通常の恒星の寿命である3000万年より短い可能性は十分考えられます。一方で質量が大きいこと、炭素や酸素が豊富にあるためにCNOサイクルが通常の恒星より長く続く可能性はあるものの、いずれにしても水素燃焼の期間と比べれば誤差の範囲内に収まると思われます。

 

Source

“Требования российских телеканалов к Google достигли ₽2 ундециллионов”.(РБК) David Hodari. “Russia fines Google more than the world's entire GDP”.(NBC News) Todd Feathers. “Russian Court Wants Google to Cough Up $20,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000”.(Gizmodo)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

#2澗ルーブル #200溝ドル

最終更新日:2024/11/06

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