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小惑星「Quro」と「ホシザキ」命名 『恋する小惑星』にちなんだ命名

sorae.jp 2024年12月1日 21時12分

太陽系に無数に存在する「小惑星」は、一定の条件を満たすことで名前を付けることができます。命名に関するルールは比較的緩いため、フィクション作品に登場する架空の人物に由来する名称も多数あります。

国際天文学連合(IAU)の小天体命名作業部会(WGSBN)は、提案された小惑星の名称が適切かどうかを審査する作業部会です。小惑星の名称提案が承認され、正式に命名されれば、WGSBNが発行する『WGSBN速報(WGSBN Bulletin)』にて公表されます。

【▲ 図1: すばる望遠鏡の観測画像中にある小惑星「Quro」と「ホシザキ」。(Credit: COIAS & NAOJ / 小惑星名の追加とトリミングは筆者(彩恵りり)による)】

2024年11月25日付で発行されたWGSBN速報にて、718492番小惑星「2017 FZ233」に提案された名称「Quro」と、719612番小惑星「2019 UW157」に提案された名称「ホシザキ(Hoshizaki)」がそれぞれ承認されたことが公表されました(※1)。Quroは漫画作品『恋する小惑星(アステロイド)』の原作者Quro氏、ホシザキは同作品中の舞台である星咲高校に因んでいます。また、これらの小惑星は未発見小惑星検出アプリケーション『COIAS』を通じて発見されましたが、アプリの名称が同作品の略称に因むことも命名に絡んでいます。

COIASが発見者である小惑星に名称が付けられたのは、697402番小惑星「2017 BX232」に付けられた名称「アオ(Ao)」以来、2例目および3例目となります。

小惑星「アオ(Ao)」命名 『恋する小惑星』にちなんだアプリによる市民科学的発見(2024年9月7日)

※本記事で言及されている全ての数値は、本記事の執筆時点(2024年11月26日)での情報です。

「小惑星」の命名はかなり自由

太陽系には「小惑星」と呼ばれる小さな天体が無数に存在します。真の総数は不明ですが、発見されているものだけでも142万個を超えています。

小惑星の発見が認められるには、公転軌道を計算するために必要な、地球から見た小惑星の位置や明るさの変化を観測する必要があります。この段階で付与されるのは「仮符号」と呼ばれる機械的に割り振られた英数字であり、初めはこれが名称となります。例えば、今回命名された小惑星の1つは「2017 FZ233」という仮符号を持ちますが、これは「2017年の3月16~31日の間に発見された5850番目の小惑星」という意味となります。

そして観測回数が増え、公転軌道が精度よく確定した場合には、通し番号である「小惑星番号」が付与されます(※2)。小惑星番号は740000番まで付与されており、番号が付与されれば自動的に発見者に命名権が与えられます。発見者は名称の提案を、その理由も添えてWGSBNに申請し、15人のメンバーによる審査と投票で承認されれば、WGSBNが定期的に発行する『WGSBN速報(WGSBN Bulletin)』にて公表されます。

とはいえ、1990年代からは自動化システムで多数の小惑星が発見されるようになったため、番号付きの小惑星は激増しています。原則として発見者1人が提案できるのは2か月に2件までであること(※3)、命名権の譲渡や売買は禁止されていることから(※4)、正式な名称が命名された小惑星は2万4985個しかありません。

小惑星の名称に関するルールでは、名称について「アルファベットで16文字以内である」「公序良俗に反しない」「商業目的ではない」「すでに命名済みの小惑星や衛星とあまり似ていない」など、いくつかの制約が設けられています。とはいえ、その他の天体のルールと比べればかなりゆるい制限です。フィクション作品にのみ登場する架空の事物にちなんでいても認められており、例えば7991番小惑星「かぐや姫(Kaguyahime)」、10160番小惑星「トトロ(Totoro)」、46737番小惑星「アンパンマン(Anpanman)」などの小惑星があります。

人物に由来する小惑星の名称も制約は少なく(※5)、文学作品の作者にちなんだもの、例えば3998番小惑星「手塚(Tezuka)」、5008番小惑星「宮沢賢治(Miyazawakenji)」、8305番小惑星「定家(Teika)」などがあります。

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前章の通り、小惑星の発見が認められるには、複数の観測データが必要です。とはいえ、世界中の天文台が日々積み重ねていく観測データは膨大です。ほとんどはコンピューター上の探索で自動的に発見されますが、それでも一部は見逃されることがあります。

【▲ 図2: 今回の2つの小惑星の発見に関わった未発見小惑星検出アプリケーション「COIAS」のアイコン。(Credit: COIAS)】 【▲ 図3: 今回、自身の作品からに加え、自身も小惑星の名称として命名されることとなった『恋する小惑星』の作者Quro氏のX(旧Twitter)アカウント。(Credit: Quro)】

そこで、人の目で観測データを精査し、未発見の小惑星を見つけることを目的とする未発見小惑星検出アプリケーション『COIAS』が2023年7月末より公開されています。COIASという名は「Come On! Impacting ASteroids(さぁ来い!衝突するような小惑星)」の略であり、Quro氏による漫画『恋する小惑星』の略称『恋アス』にちなんだバクロニムです。同作品は高校の地学部を舞台とするフィクション作品ですが、天文学の描写が正確であること、多数の実在する天文機関や天文イベントをモデルとした場面が描かれていることで知られています。

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COIASでは、ハワイ島の「すばる望遠鏡」で撮影された観測データを、多数の参加者が分析し、すでに発見されている小惑星か、それとも未知の小惑星であるかが決定されます。COIASを通じて新たに発見され、仮符号が付けられた小惑星は2797個あります。ただし、小惑星の発見日は観測された日を基準とします。小惑星2017 FZ233の場合、写真の撮影日は2017年3月22日であるため、発見日および仮符号はこの日を基準とします。

2024年7月14日に発行された小惑星回報にて、2017 FZ233に718492番、2019 UW157に719612番がそれぞれ付与されたことが公表され、この時点で小惑星の命名提案ができる状態となりました。COIASでの発見によって最終的に小惑星番号が付与されるまでに至った小惑星はこれで2例目および3例目となります(※6)。

そして同年11月25日付で発行されたWGSBN速報4巻16番にて、2017 FZ233に提案された名称「Quro」と、2019 UW157に提案された名称「ホシザキ(Hoshizaki)」がそれぞれ承認されたことが公表されました。COIASが発見者である小惑星に名称が付けられたのは、697402番小惑星「2017 BX232」に付けられた名称「アオ(Ao)」以来、2例目および3例目となります。

【▲ 図4: 小惑星「Quro」の命名理由について記されたWGSBN速報の記述。(Credit: IAU WG Small Bodies Nomenclature)】

718492番小惑星「Quro」(2017 FZ233)
2017年3月22日発見 / 発見者COIAS / すばる望遠鏡で発見(天文台コードT09)
Quro(1985年生まれ)は『恋する小惑星』を制作した日本の漫画家。作品内では実際の天文現象や天文機関がモデルとして登場している。(訳注: 同作品内でモデルとなったイベントが描かれてた)石垣島で開催されるイベント「美ら研」のおかげで、若い学生たちの間で、新しい小惑星や天文現象の発見が人気となり、リアルな研究体験ができるようになった。

【▲ 図5: 小惑星「ホシザキ」の命名理由について記されたWGSBN速報の記述。(Credit: IAU WG Small Bodies Nomenclature)】

719612番小惑星「ホシザキ」(2019 UW157)
2019年10月27日発見 / 発見者COIAS / すばる望遠鏡で発見(天文台コードT09)
ホシザキ(星咲)は、Quroが制作した日本の漫画『恋する小惑星』に登場する架空の高校である。主人公たちは小惑星を発見したいという夢を持っている。同校の地学部の活動を通じて、彼女らは同じ志を持つ友人や小惑星探索の専門家らと出会い、夢を実現した。最終的に彼女らは、発見した小惑星にホシザキと名付けた。

Quroとホシザキは、どちらも火星と木星との間にある「小惑星帯」の小惑星であり、Quroは直径約1km、ホシザキは直径約700mと推測されます(※7)。どちらも典型的な小惑星であり、名前以外にこれといった特徴はありません。しかし、公転軌道が特別な小惑星には命名に制限があるため(※8)、逆説的ではあるものの、普通の小惑星であるゆえに命名できたとも言えます。

漫画作品の事物にちなむ小惑星の命名は市民科学的成果

『恋アス』内では、最終的に主人公たちが発見した小惑星に「ホシザキ」という名称を付ける場面が描かれています。これは主人公たちが通う「星咲高校」にちなんでいます。今回の命名により、描かれた時点では全くの架空の出来事であったことが現実になったと言えます。

今回のQuroおよびホシザキの命名は、COIAS上で行われた非公式なファン活動の一環として行われました。また、普段は天文学とは関わりのない、一般市民が参加するアプリケーションを通じて発見されました。普段はその分野に全く関わりのない人々が自然科学の研究に参加することを市民科学と呼びますが、前回のアオの例も合わせ、今回の小惑星の発見から命名に至るまでの流れは、まさに市民科学の典型的な例であると言えるでしょう。

なおQuro氏は、今回の命名についてX(旧Twitter)に以下のように投稿しています。

「Ao」に続き、小惑星「Hoshizaki」「Quro」の命名が認定されたとのこと。発見者の皆様、COIAS開発チームの皆様、誠におめでとうございます!

特に「Quro」については、恐れ多すぎて本当に良いのだろうか…本当に??と未だにドキドキしております。ご提案頂いた発見者の皆様、誠にありがとうございます。身に余る光栄です。宇宙に足向けて寝られない…

注釈

※1…小惑星の名称の正式な表記法は本来、アルファベット表記が唯一であり、日本語表記などは独自のものとなります。ただし、JAXAなどの日本の宇宙機関は、「イトカワ」や「リュウグウ」のように、名称をカタカナ表記することが一般的であり、事実上の基準となっています。本記事の「ホシザキ」の表記はこの傾向に倣いました。一方で「Quro」については、由来となった人物の表記に倣ってアルファベットのママとしています。

※2…「公転軌道を精度よく確定した」と見なされるには、通常は太陽・地球・小惑星が一直線上に並ぶ「衝」を4回以上観測することが原則です。ただし、実際の運用ルールはずっと複雑であり、また例外も数多くあります。

※3…ただし、特別な理由があれば件数の上限が撤廃されることもあります。例えば2012年5月には、ローウェル天文台のエドワード・L・G・ボーエル氏が命名権を持っている12個の小惑星が一度に命名されました。12個の小惑星は全て、国立天文台の渡部潤一氏らが調整の上で、東日本大震災で大きな被害を受けた地域にちなんだ命名が提案され、一斉に承認されました。

※4…この禁止措置は、250番小惑星「ベティーナ」の命名権が売買された経緯を理由としています。ただし、天文学の普及を図る目的で開かれたイベントにおいて、一般公募で名称を募集し、その名称を命名権を持つ人物が提案することは禁止されていません。

※5…歴史的な評価が十分定まる期間を置くために、政治家や軍人や関連する歴史的な出来事は、その人物の死後又は出来事が起きてから100年経過するまでは許可されません。100年経過後も、WGSBNが許可しない場合もあります。

※6…ただし、新たな小惑星を検出して仮符号を付与するきっかけとなった観測者と、軌道を確定し小惑星番号の付与するきっかけとなった観測者が異なる場合、発見者に位置づけられるのは後者になるというルールがあります。例えば697545番小惑星「2017 DH164」は、COIASを通じて仮符号が付与された小惑星ですが、小惑星番号を決定し発見者に位置づけられたのはCOIASではなくPan-STARRS 2となっています。従って命名権を持つ側もCOIASではなくPan-STARRS 2となっています。

※7…アルベドを0.15と仮定し絶対等級から算出。

※8…地球近傍小惑星、トロヤ群、太陽系外縁天体など、特定の公転軌道に属する小惑星は、特定の分野の神話に関連した名称のみを付ける決まりとなっています。

 

Source

“WGSBN Bulletin Volume 4, #16”.(IAU WG Small Bodies Nomenclature) “M.P.C. 175536 & 175547”.(IAU Minor Planet Center) “(718492) = 2017 FZ233”.(IAU Minor Planet Center) “(719612) = 2019 UW157”.(IAU Minor Planet Center) “Minor Planet Naming Guidelines”.(IAU WG Small Bodies Nomenclature) “データ解析状況”.(COIAS) “Quro氏のX(旧Twitter)アカウントのポスト”. “未発見小惑星検出アプリCOIASの公式X (旧Twitter) アカウントのポスト1”. “未発見小惑星検出アプリCOIASの公式X (旧Twitter) アカウントのポスト2”.

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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