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和製宇宙飛行シム「Keplerian Space Discovery」を編集部が遊んでみた

sorae.jp 2024年12月25日 22時12分

2024年12月12日、宇宙を舞台にしたシミュレーションゲーム「Keplerian Space Discovery(KSD)」のデモ版がSteamで公開されました。宇宙開発系のシミュレーションゲームといえば「Kerbal Space Program(KSP)」などの海外ゲームが有名ですが、本作は国内デベロッパーのKugelblitzが開発。どのような内容のゲームなのか、編集部でもデモ版をプレイしてみました。

デモ版では世界各地の発射場から2種類のロケットを打ち上げ可能 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版の起動画面(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版でプレイを開始したところ。画面中央には地球が表示されている。画面左端のメニューから天体を選んだり発射場を選んでロケットを打ち上げたりできる。上端には時刻や時間経過の操作パネル、右端には選択中の物体(ここでは地球)の情報を表示。右下隅の「=」でゲーム内メニュー、「?」でキー操作一覧を呼び出せる(Credit: Kugelblitz)】

ざっくり説明すると、KSDは「自分で組み立てた宇宙機を打ち上げて太陽系を旅するゲーム」です。ゲーム内の太陽系では8つの惑星をはじめ、それらの主な衛星や、冥王星、ケレス、エリスといった準惑星や太陽系外縁天体の一部を配置。地球周回軌道には国際宇宙ステーション(ISS)と中国宇宙ステーション「天宮」(CSS)も配置されていて、宇宙ステーションの外観を楽しむこともできます。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版で国際宇宙ステーション(ISS)を表示させたところ。ユニティの天底にMPLMが結合されている、スペースシャトルが運用されていた頃の姿で再現されている(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版で中国宇宙ステーション「天宮」(ISS)を表示させたところ(Credit: Kugelblitz)】

地球からロケットを打ち上げる場所として、KSDでは世界各地の発射場を網羅。アメリカのケネディ宇宙センターやカザフスタンのバイコヌール宇宙基地はもちろん、日本では種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所をはじめ、北海道スペースポートやスペースポート紀伊も用意されいています。

ただし、デモ版では宇宙機やロケットを組み立てる機能がまだ実装されておらず、打ち上げられるのはあらかじめ用意されている2種類のロケットのみとなるため、地球周回軌道にロケットの上段を投入するところまで体験できるイメージです。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版の打ち上げ準備画面でStarship風の「TR-X」を選択したところ。打ち上げは自動で進行するため、目標とする軌道の情報をここで指定することになる(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にて種子島宇宙センターから発射されたTR-Xロケット。F2キーでUIを切り替えてライブ配信風の画面にすることもできる(Credit: Kugelblitz)】

打ち上げられるロケットは一般的なロケット風の「TR-1」と、Starship(スターシップ)風の「TR-X」で、どちらも2段式。今後は打ち上げ時にペイロード(搭載物)として作成した人工衛星や探査機などを搭載できる予定ですが、前述の通りデモ版では人工衛星や宇宙船を組み立てられる機能が実装されていないため、純粋に打ち上げだけを体験することになります。

KSDの打ち上げは自動的に進行します。目標となる軌道の高度や傾斜角は打ち上げ準備の画面で指定できますが、TR-1は初期値のままでも高度約500kmの円軌道に投入することが可能で、TR-Xは多少の試行錯誤が必要とのこと。編集部ではTR-Xを高度150km付近の円軌道に投入しようとしましたが2回失敗し、3回目で高度1000km×140kmの軌道に投入することができました。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にて、3回目の挑戦で地球周回軌道に投入できたTR-Xロケットの上段(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にて、軌道投入後のTR-Xロケット上段の遠点を下げるために近点付近でエンジン噴射を行っているところ(Credit: Kugelblitz)】

軌道上の宇宙機は基本的に手動操作ですが、宇宙空間では慣性が働いて回転し続けてしまうため、自動的に回転を止めて姿勢を安定させる機能が用意されています。また、機体を進行方向やその逆方向などへ自動的に正対させる機能も用意されているので、手動でもある程度は精密に軌道を変更することが可能。さきほどのTR-Xのように高度が一番高くなる遠点(Ap)が目標よりも高すぎる場合、高度が一番低くなる近点(Pe)付近で進行方向とは逆方向(Retrograde)に機体を向けてからエンジンを噴射することで、遠点の高度を効率的に下げることができます。

ただ、地球を1周するには低軌道でも約90分かかります。タイミングによってはエンジンを噴射したい場所へ移動するまで1時間以上かかることもありますが、KSDでは時間経過を加速できるので、リアルタイムで待つ必要はありません。軌道の近点や遠点に到達する時間までスキップさせることもできるので、前述の「近点でエンジン噴射して遠点を下げたい」ような場合に便利です。

なお、地球を離れて月や他の惑星などへ向かいたい時にエンジン噴射を最適な方向やタイミングで行うための支援機能(※)も用意される予定ですが、デモ版ではUIが組み込まれているのみで、まだ実際には利用できません。

※…KSPでいうマニューバノードを作成するための機能で、ホーマン軌道にも対応する予定。KSPにmodを導入したことがあるプレイヤーには「MechJeb2」のManeuver Plannerに似ていると言えば伝わりやすいかもしれません。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にて、マニューバプランの作成ツールを呼び出したところ。UIは実装されているがまだ実際に機能はしていない(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にて、デバッグコンソールを使って地球低軌道に配置した後で月周回軌道への投入を目指したStarship。ある程度月に近付いたところで現在位置がわからなくなってしまい、画面では太陽の至近にいるように見える(Credit: Kugelblitz)】

また、後述するデバッグコンソールを使って地球低軌道に配置したStarshipを手動操作で月周回軌道に投入しようと試みましたが、月の重力の影響を受け始めそうな辺りで軌道が乱れたり、現在位置がわからなくなったりしました。いずれにしても、デモ版では月探査や深宇宙探査に最適な宇宙機やそれを打ち上げるためのロケットを自分で作ることはできないため、現実のように宇宙機で他の天体に向かうことはまだ困難でしょう。

デモ版の楽しみ方を大きく広げる「デバッグコンソール」 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にてゲーム内メニューを呼び出したところ。デバッグコンソールは下から2番目に用意されている(Credit: Kugelblitz)】

自分で作った宇宙機で太陽系を自由に旅することはまだできないKSDのデモ版ですが、その楽しみ方を大きく広げる可能性を秘めているのが「Debug Console(デバッグコンソール)」です。

プレイ中のメニューから呼び出せるデバッグコンソールは、ある天体の周囲に別の天体や宇宙機を配置できる機能です。たとえばこの画面では親天体(Parent)に月を、配置する物体(Object)に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月着陸機「SLIM」を指定。軌道は高度100km・傾斜角90度になるよう設定しました。この状態で「Create」をクリックすると、月の極軌道にSLIMが配置されます。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版のデバッグコンソールにて、月を周回するSLIMを配置しようとしているところ。遠点と近点の高度を入力してから「Convert」をクリックすれば軌道長半径と離心率に変換してくれる(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版のデバッグコンソールを使って月周回軌道に配置されたSLIM。デモ版ではあらかじめ用意されている宇宙機を配置できる(Credit: Kugelblitz)】

配置した宇宙機は手動操作できるので、姿勢を変更していろいろな角度を楽しんだり、エンジンを噴射して軌道を変更したりすることができます。配置できる宇宙機はSLIM以外にもStarshipや「Sputnik 1(スプートニク1号)」などが用意されており、「火星周回軌道に到着したStarship」のような架空のシーンを再現することも可能です。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にて撮影した、エンジン噴射中のSLIMのスクリーンショット(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版にて撮影した、火星周回軌道を飛行するStarshipのスクリーンショット(Credit: Kugelblitz)】

配置できる物体は宇宙機に限らず、KSDに実装されている惑星・準惑星・太陽系外縁天体も対象です。たとえば地球の高度38万kmを周回する物体として木星を配置すれば、「もしも月の位置に木星があったら」のようなシチュエーションをゲーム内で体験できます。同時に複数の物体を配置することも可能です。

カメラ表示は宇宙機や天体を中央に捉え続ける「Chase」、カメラの向きを自由に変えられる「Free」、対象の軌道を表示する「Orbital」を切り替えられます。ロケットや宇宙機を操作するにはChaseが便利ですが、Freeにすれば画面内の対象の位置を変えたりカメラを回転させたりできるようになるので、柔軟な構図を選べるようになって便利です。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版のデバッグコンソールを利用して地球の高度38万kmに配置した木星(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版のデバッグコンソールを利用して一列に配置した水星・金星・地球・火星(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版でカメラモードのFreeを使って撮影した国際宇宙ステーション(ISS)のスクリーンショット(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版でカメラモードのFreeを使って撮影した火星とフォボス(Credit: Kugelblitz)】

嬉しいのは焦点距離や露出を調整できる機能です。標準では35mm・EV±0に設定されていますが、圧縮効果を利用した構図にするために焦点距離を大きくしたり、影になって見えづらい部分を明るくするために露出を高めにしたりすることが可能です。画面表示はF2キーで切り替えられるので、ゲームのUIを消しておけば、よりシネマチックなスクリーンショットを撮れるようになります。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版で表示した木星の衛星イオ。画面上端右寄りに表示されている焦点距離は35mm(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版で表示した木星の衛星イオ。焦点距離を85mmに変更したため、35mmの時と比べて背後の木星が圧縮効果で大きく見えている(Credit: Kugelblitz)】

また、宇宙開発に詳しい人であれば、TLE(2行軌道要素)形式のデータをデバッグコンソールに入力して軌道を描き出すこともできます。一例として準天頂衛星システム「みちびき(QZSS)」で運用中の測位衛星4機のTLEを入力すると、このような軌道が現れました。本記事の編集時点(日本時間2024年12月23日14時30分頃)では準天頂軌道を飛行する「みちびき2号機(QZS-2)」が日本付近の上空にいることがわかります。

【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版のデバッグコンソールに準天頂衛星システム「みちびき」で運用中の測位衛星4機のTLEを入力したところ(Credit: Kugelblitz)】 【▲ 「Keplerian Space Discovery」デモ版のデバッグコンソールを利用して描いた準天頂衛星システム「みちびき」の測位衛星4機の軌道(Credit: Kugelblitz)】 自分でロケットを組み立てられる今後が楽しみな作品

デバッグコンソールも十分楽しいKSDですが、今回公開されたのはあくまでもデモ版。自分で作った探査機を月や惑星に送り込んだり、歴史的な探査ミッションを再現したりすることはまだできませんし、細かな操作性が気になる場面もあるはず。また、現状では発射場周辺など一部の地形が作り込まれているものの、発射場ごとの違いまでは再現されていないため、景観に物足りなさを感じることがあるかもしれません。

Kugelblitzはデモ版公開の1年後となる2025年12月のアーリーアクセス開始を目指して宇宙機・ロケットの組み立て機能の実装などを進めていくとしています。今後の進展が楽しみです!

 

Source

Keplerian Space Discovery Demo (Steam)

文・編集/sorae編集部

#宇宙ゲーム #KeplerianSpaceDiscovery #KSD

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