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NASA、火星サンプルリターンで2つのオプションを検討へ 2026年後半に選択

sorae.jp 2025年1月13日 10時26分

アメリカ航空宇宙局(NASA)は日本時間2025年1月8日未明にメディアブリーフィングを開催し、欧州宇宙機関(ESA)と共同で進めている「火星サンプルリターン(Mars Sample Return)」計画に関する最新の状況を発表しました。

NASAによると、採取したサンプルを火星周回軌道に運ぶ役割を担う小型ロケット「MAV(Mars Ascent Vehicle、火星上昇機)」を着陸させる方法について、競争と革新を促しつつコストとスケジュールの節約を図るために、設計段階では2つの方法を同時に進めるとしています。設計は2026年後半に確定する見込みです。

火星サンプルリターンミッションとは

NASAとESAが取り組む火星サンプルリターン計画は、火星の表面で採取したサンプルを地球に持ち帰ることを目的としています。

これまで火星の岩石は隕石として地球に飛来したもの(火星隕石)を調べるか、あるいは火星探査機・火星探査車に搭載された装置を使って現地で採取・分析することしかできませんでした。米欧共同のサンプルリターン計画が成功すれば、火星で直接採取されたサンプルを地球の研究施設で詳しく調べることができるようになります。

7億4200万年前の火星に液体の水があった? アメリカの大学で眠っていた火星隕石の分析結果が示唆(2024年11月23日) 火星隕石「ティシント隕石」から多種多様な有機物を検出 有機マグネシウム化合物も初検出(2023年1月26日)

計画は「火星でのサンプル採取」「サンプルの回収と打ち上げ」「サンプルを地球へ輸送」という三段構えのミッションで構成されています。このうち第1段階となる「火星でのサンプル採取」は、2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターに着陸したNASAの火星探査車(ローバー)「Perseverance(パーシビアランス)」によって、すでに進められています。

【▲ 2024年7月に公開されたアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Perseverance」のセルフィー。ロボットアームのカメラで撮影した62枚の画像を使って作成されている(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】 NASA火星探査車がサンプル保管容器の地表配置を開始 火星サンプルリターン計画での回収を想定(2022年12月24日)

一方、「サンプルの回収と打ち上げ」と「サンプルを地球へ輸送」の段階を担う探査機はまだ打ち上げられていません。

従来の計画に従えば、Perseveranceが採取したサンプルの回収と打ち上げはNASAの着陸機「SRL(Sample Retrieval Lander、サンプル回収ランダー)」が担当します。SRLにはMAVが搭載されており、サンプルを移し替えた上でMAVを発射。この時点で軌道上にはESAの周回機「ERO(Earth Return Orbiter、地球帰還オービター)」が待機していて、火星周回軌道に到達したMAVから放出されたサンプル入りのコンテナをキャッチして回収カプセルに収容し、地球に運ぶというプロセスが想定されていました。また、サンプルはPerseveranceがSRLまで運ぶものの、補助的な手段として、火星表面に置かれた保管容器をSRLに搭載する小型ヘリコプターを使って拾い集めることも予定されていました。

欧米の火星サンプルリターン計画、サンプル保管容器を回収する小型ヘリ搭載へ(2022年7月30日) コストの高さとスケジュールの長さを緩和する提案を募集 【▲ 再検討前の内容を反映した「火星サンプルリターン計画」のイラスト。右下に描かれているのがNASAの着陸機「SRL」で、サンプル回収の補助手段として搭載が検討されていた小型ヘリコプターも左に描かれている(Credit: NASA/ESA/JPL-Caltech)】

ただ、3つの探査機・探査車や1つの小型ロケット、それに小型ヘリコプターの運用を想定した従来の計画は非常に複雑です。NASAの2024年4月15日付のプレスリリースによると、総予算は80億~110億ドルと試算されており、予算上の制約やバランスの取れたポートフォリオを維持する必要性を考慮すれば、採取されたサンプルが地球へ到着するのは2040年になると予想されています。

そこでNASAは、コスト、リスク、ミッションの複雑さを軽減した上で、2030年代に火星から地球へとサンプルを持ち帰ることができる手法の提案を2024年4月に募集しました。2024年6月には回答した民間企業のなかからLockheed Martin(ロッキード・マーティン)やSpaceX(スペースX)など7社を選定し、後にRocket Lab(ロケット・ラボ)の1社を追加。ここにNASA、ジェット推進研究所(JPL)、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(APL)も加えた11件の研究提案について、NASA内外の研究者などで構成された火星サンプルリターン戦略レビューチーム(Mars Sample Return Strategy Review Team)が検討を進めていました。

NASAが火星サンプルリターンミッションの手法研究で7社の企業を選定(2024年6月24日) スカイクレーンと商業的能力 2つの方法を探索・評価

8日の発表によると、MAVを搭載する「プラットフォーム」を着陸させる方法として、火星探査車「Curiosity(キュリオシティ)」やPerseveranceで実績のあるスカイクレーン方式と、新たに民間企業が提供する商業的能力の2つが探索・評価されます。プラットフォームの電源は太陽電池からNASAの火星探査車などで使われている放射性同位体熱電気転換器(Radioisotope Thermoelectric Generator: RTG)に変更され、MAVも小型化されます。

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Perseverance(パーシビアランス)」のスカイクレーン方式による着陸を説明した動画】
(Credit: NASA/JPL-Caltech)

また、回収したサンプル30本をプラットフォームからMAVに移し替える方法も再検討されていて、コンテナの外側に火星の塵が蓄積することはなくなったとされています。宇宙探査では地球の生命で探査対象の天体を汚染してしまう危険性や、地球外で採取されたものを地球へ持ち帰ることで生じ得る未知の危険性について検討・対策する必要があり、前者は前方汚染(Forward Contamination)の防止、後者は後方汚染(Backward Contamination)の防止と呼ばれます。コンテナ外部への塵の付着を防ぐことで、後方汚染の防止が簡略化できるということです。

なお、検討の対象となっているのは計画の第2段階にあたる「サンプルの回収と打ち上げ」の方法であり、ESAが担当する第3段階の「サンプルを地球へ輸送」を担うEROは対象外です。

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の小型ロケット「MAV」で火星表面から打ち上げられた後に放出されたサンプルコンテナをキャッチする、欧州宇宙機関(ESA)の周回機「ERO」の想像図(Credit: Airbus)】

EROの最終設計審査はすでに終了し、製造とテストの段階に進んでいます。共同で計画を進めるNASAとESAは緊密に連携しており、EROプロジェクトチームのリーダーを務めるTiago Loureiroさんは2024年7月の時点で「代替案がどのようなものになるにせよ、EROが計画通りかそれ以上の成果をあげることを私たちは確認しました」とコメントしています。

EROはヨーロッパの「Ariane 6(アリアン6)」ロケットで2027年に打ち上げられ、2029年に火星へ到着する予定です。

 

Source

NASA - NASA to Explore Two Landing Options for Returning Samples from Mars ESA - Europe’s Earth Return Orbiter reaches design maturity JAXA/ISAS - 微生物汚染管理を伴う惑星保護活動の現状と課題

文・編集/sorae編集部

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