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ウェッブ宇宙望遠鏡が小惑星帯で138個の小惑星を発見 最小は推定直径約10m

sorae.jp 2025年1月16日 21時7分

火星と木星の間にある「小惑星帯(メインベルト)」の小惑星のうち、小さなものはやがて軌道が変化して地球に接近する「地球近傍小惑星」になるのではないかと予測されています。ただし、地球から遠く離れた小さな小惑星を発見することは困難であり、これまでに小惑星帯で発見された最小の小惑星は直径1kmをわずかに下回る程度でした。

マサチューセッツ工科大学のArtem Y. Burdanov氏およびJulien de Wit氏を筆頭著者とする国際研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の観測データを分析し、小さな小惑星を探索しました。この観測データは、本来は全く目的の異なる観測プロジェクトで取得されたデータです。

その結果、推定直径が最小で約10mのものを含む、非常に小さな小惑星を新たに138個も発見することができました。これは研究チームとしても予想外の数です。小さな小惑星を多数発見することは、小惑星帯の力学をモデル化し、地球に接近する小惑星がどの程度存在するのかを推定する上でも重要となります。

【▲ 図1: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データにより、小惑星帯の小さな小惑星を多数発見することに成功しました。(Credit: Ella Maru & Julien de Wit)】 小惑星帯の小さな小惑星はどれくらいある?

直径10kmの小惑星が地球に衝突すれば、白亜紀末のような大量絶滅が起こるでしょう。直径10mの小惑星ならば、衝突しても全地球的な危機とはなりませんが、都市の上空を通過するような当たり所が悪い状況が起これば、大きな災害をもたらす恐れがあります。2013年にロシアのチェリャビンスク州上空を通過した小惑星は、元の大きさが約17mであったと推定されています。

このように地球に接近し、時には衝突する恐れのある「地球近傍小惑星」は、約46億年前の太陽系誕生時からそこにあったわけではないと考えられています。その起源は、火星と木星の公転軌道の間にある、無数の小惑星で構成された「小惑星帯」にあると考えられています。小惑星帯はSF映画で描かれるほど混雑はしていないものの、それでも時々、小惑星同士が衝突し、無数の破片がばら撒かれることがあります。

直径が100kmを超えるような大きな小惑星は、外部の力によって小惑星帯から離脱することはないと考えられていますが、小さな小惑星は小惑星同士の衝突や接近、あるいは太陽放射などの外部の力によって小惑星帯から離脱し、地球近傍小惑星になることもあると考えられています。小惑星帯に小さな小惑星がどのくらい存在するのかは、小惑星帯における小惑星の力学をモデル化し、あるいは地球に接近する小惑星がどのくらい存在するのかを推定するのにも役立ちます。

しかし、何億kmも離れた位置にある小さな小惑星はかなり暗いため、簡単に発見することはできません。これまでの技術では、小惑星帯で発見できる小惑星の大きさの下限は1kmをわずかに下回る程度でした。直径数百mほどの小惑星の発見も皆無ではないものの、大半が未発見の状態と考えられています。

「捨てる神あれば拾う神あり」な研究 【▲ 図2: 今回の研究成果を端的に示したGIFアニメ。赤外線での観測は、これまでの可視光線による観測では見ることのできなかった、多数の小さな小惑星の像を浮かび上がらせます。(Credit: Ella Maru & Julien de Wit)】

ところで、小惑星帯のように太陽から遠くの位置にある小惑星の場合、可視光線で観測するより、赤外線で観測した方が明るいので撮影しやすい場合もあります。宇宙に打ち上げる赤外線望遠鏡は、偶然視野に入った小惑星を捉えることがあります。最新の宇宙望遠鏡の1つであるウェッブ宇宙望遠鏡も赤外線望遠鏡の1つです。

今回の研究で分析の対象となった画像も、元々は地球から約40光年離れた位置にある恒星「TRAPPIST-1」の観測を目的としたものでした。TRAPPIST-1には複数の惑星が見つかっており、いくつかは地球と似た環境を持つかもしれないと予測されています。TRAPPIST-1に “第2の地球” があるかどうかを決定するには、観測対象とは無関係のノイズを排除する必要があります。予測のつかない未知の小惑星の映り込みは、恒星や太陽系外惑星を詳細に観測しようとする者にとっては「空の害虫」と言えます(※1)。

※1…「空の害虫(Vermin of the Sky)」という表現は、本記事においては今回の研究を行ったJulien de Wit氏の発言を元にしています。ただしこの表現そのものは、1980年代ごろまで多くの天文学者が使用していた単語であり、de Wit氏の発言もそれを踏まえていると思われます。白亜紀末の大量絶滅の原因が天体衝突であるとする説は、この当時においてはあまり受け入れられておらず、小惑星観測への関心が一般的に低かったことに起因しています。

ウェッブ宇宙望遠鏡が系外惑星「TRAPPIST-1b」の温度を測定 大気は存在しない可能性(2023年4月9日) 金星のような厚い大気は存在しなかった ウェッブによる系外惑星「TRAPPIST-1 c」の観測結果(2023年6月25日) 7つの惑星が見つかっているTRAPPIST-1惑星系で地球外文明の信号探査(2024年10月27日)

しかし、「捨てる神あれば拾う神あり」という言葉がある通り、小惑星を見つけようと考える者にとっては、ノイズでしかない画像が宝の山となり得ます。Burdanov氏とde Wit氏を筆頭著者とする国際研究チームは、TRAPPIST-1の観測のために撮影された1万枚以上の画像データを分析し、小さな小惑星がどのくらい含まれているのかを調査しました。

もちろん、元々小惑星に焦点を当てていない画像であることや、1つ1つの小惑星はあまりにも暗いことから、そのまま分析しても小惑星なのか無関係のノイズなのかを区別することは困難です。そこで、複数の画像を重ね合わせて小惑星の像をはっきりとさせる「シフトアンドスタック」と呼ばれる手法で画像を処理し、光源が小惑星かそれ以外のノイズなのかを区別することが試みられました。今回とほぼ同じ手法は、2023年に発表された土星の新衛星の発見にも使われており、望遠鏡の性能ギリギリの明るさの天体を見つけることに役立ちます。

最小で推定直径約10mの小惑星を新たに発見! 【▲ 図3: 今回の観測で新たに発見された138個の小惑星の一覧。最小のものは直径約10mと推定されています。(Credit: Artem Y. Burdanov, Julien de Wit, et al.)】

今回の分析では、すでに発見されている8個の小惑星に加えて、新たな小惑星を138個も発見することに成功しました。そのほとんどは直径数十mと推定され、中には直径約10mではないかと推定されるものも見つかりました。これほどの大きさの小惑星は、数億km離れた小惑星帯はおろか、数万km以内まで近づく地球近傍小惑星でも中々見つかるものではありません。ウェッブ宇宙望遠鏡は過去にも小惑星帯で最小と思われる小惑星を発見していますが、その時の記録は推定直径100~200mですので、今回はその記録を大幅に更新しています。

ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データから小惑星帯のきわめて小さな小惑星を偶然発見か(2023年2月12日)

発見された小惑星のほとんどは、実際に小惑星帯に存在するものと見られます。ただし、数個の小惑星は、小惑星帯と比べてより太陽系の内側を周回する地球近傍小惑星である可能性があります。また、木星と軌道共鳴をしている可能性がある小惑星も2個見つかりました(※2)。

※2…天体の重力相互作用によって、公転軌道の周期が力学的に安定な状態に置かれている天体は軌道共鳴していると呼ばれます。そのような天体は公転周期が単純な整数比になることで特徴づけられます。今回の場合、木星と小惑星との公転周期が1:1となるトロヤ群と、2:3となるヒルダ群の候補である小惑星が1個ずつ発見されました。

研究チームは当初、新たに発見される小惑星は数個であると予測していました。138個という発見数はあまりにも予想外の多さです。これは、小惑星同士の衝突と破砕が、従来の推定よりもずっと多く発生していることを示唆しています。直径数十mの破片の発生量が予想より多いならば、それらの小惑星同士の衝突により、さらに小さな破片も大量に生じることになるでしょう。今回の発見は、小惑星帯全体における小惑星の総数や、地球近傍小惑星の発生数の推定にも影響を与えるでしょう。

また、小惑星帯の小惑星には、似たような公転軌道でグループ化される「小惑星族(ファミリー)」があり、同じ小惑星族に属する小惑星は、元は1個の天体であったものが砕けて生じたものではないかと推定されています。直径数十mという小さな小惑星を見つけ、その公転軌道をグループ化すれば、小惑星族の起源や年代を観測によって決定することが可能になるかもしれません。これは、地球に落下した小惑星の破片である隕石の起源を特定することにも繋がります。

約84%の隕石の起源を新たに特定 これまでの約6%から大幅に増加(2024年11月16日)

 

Source

Artem Y. Burdanov, Julien de Wit, et al. “JWST sighting of decameter main-belt asteroids and view on meteorite sources”.(Nature) Jennifer Chu. “MIT astronomers find the smallest asteroids ever detected in the main belt”.(Massachusetts Institute of Technology) Aaron McKinnon & Abby Tabor. “NASA’s Webb Reveals Smallest Asteroids Yet Found in Main Asteroid Belt”.(NASA) Kiona N. Smith. “James Webb Space Telescope finds smallest asteroids ever seen between Mars and Jupiter”.(Space.com)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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