こちらは「ケンタウルス座銀河団(Centaurus Cluster)」に属する約1億4500万光年先の楕円銀河「NGC 4696」です。赤色は複雑に広がるフィラメント構造を、紫色は高温ガスのフィラメントから放出されたX線を示しています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「Chandra(チャンドラ)」を運用するスミソニアン天体物理観測所のチャンドラX線センター(CXC)は2025年1月27日付で、チャンドラの観測データを用いて銀河中心の超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)の活動に関する研究を行ったサンティアゴ・デ・チレ大学のValeria Olivaresさんを筆頭とする研究チームの取り組みを紹介しています。
Olivaresさんたちはケンタウルス座銀河団や「ペルセウス座銀河団(Perseus Cluster)」など全部で7つの銀河団を対象に、超大質量ブラックホールの活動と銀河団内部のガスの間にみられる相互作用を調べました。今回の研究ではチャンドラで取得されたX線の観測データをはじめ、「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」や「超大型望遠鏡(Very Large Telescope: VLT)」といった宇宙や地上の望遠鏡で取得された光学観測データが用いられています。
ブラックホールに引き寄せられた物質は降着円盤と呼ばれる高温の円盤構造を形成しつつ落下していきますが、その一部はジェット(細く絞られた高速なガスの流れ)としてブラックホールから遠ざかるように放出されます。
ブラックホールとは? 光さえも脱出できない超重力の天体の仕組み解説研究チームが分析を行ったところ、これらの銀河団では巨大な銀河の中心で活動する超大質量ブラックホールが放出させたジェットによって高温の熱い銀河団ガスに空洞が生じてガスが冷却され、より低い温度のガスでできた温かなフィラメントが形成されるというモデルを裏付ける結果が得られました。この過程ではガスの乱流も重要な役割を果たしていることが明らかになっています。
このモデルでは、形成された温かなフィラメントからガスの一部がブラックホールへと落下することで次の活動が引き起こされ、放出されたジェットによってより多くの高温ガスが冷却されることでさらに次の活動につながる、という連鎖的なプロセスが想定されているといいます。ブラックホールがその活動を通じて自身に供給されるガスを次々と作り出していくこのプロセスを、CXCは「Black Holes Can Cook for Themselves(ブラックホールは自炊できる)」と表現しています。
CXCによると、前述のモデルでは銀河団の熱い高温ガスでできたフィラメントと、より低温の温かなガスでできたフィラメントの“明るさ”に相関関係があると予測されていました。今回の研究では高温ガスが明るければ温かなガスも明るいというフィラメントの関係性が初めて確認されており、この発見もモデルを裏付けることになりました。
また、今回の研究で発見されたフィラメントの関係性は銀河団の内部を移動する間に剥ぎ取られたガスが細長く伸びた尾のような構造を形成している「クラゲ銀河(Jellyfish Galaxy)」との類似性が指摘されており、双方で同様のプロセスが起こっている可能性が示唆されるということです。
Source
CXC - Black Holes Can Cook for Themselves, Chandra Study Shows Olivares et al. - Hα-X-ray Surface Brightness Correlation for Filaments in Cooling Flow Clusters (arXiv)文・編集/sorae編集部