宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2025年1月23日、先進レーダ衛星「だいち4号(ALOS-4)」の観測データを衛星間光通信経由で地上へ伝送することに成功したと発表しました。1.5μmの波長帯における通信速度1.8Gbpsでの光通信を用いて静止衛星経由で観測データを地上局へ伝送したのは世界初だとJAXAは述べています。
「だいち4号」とは?「だいち4号」は2014年5月に打ち上げられた陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」の後継機として開発されたJAXAの地球観測衛星です。日本時間2024年7月1日に「H3」ロケット3号機で打ち上げられた「だいち4号」は、衛星全体や搭載機器の機能確認を行う初期機能確認運用を経て、2024年10月28日に定常運用へ移行しました。
「だいち4号」には「だいち2号」から能力が向上したLバンド合成開口レーダー(SAR)「PALSAR-3」、船舶自動識別装置(AIS)の信号を受信して船舶情報を取得する船舶自動識別信号受信器「SPAISE3」、静止軌道上の衛星と光衛星間通信を行うための低軌道衛星用光ターミナル「OLLCT」が搭載されています。
JAXAが先進レーダ衛星「だいち4号」Lバンド合成開口レーダーの初観測画像を公開(2024年8月1日) JAXA、H3ロケット3号機打ち上げ成功 だいち4号を軌道投入(2024年7月1日) 三菱電機、先進レーダ衛星「だいち4号」を公開 2024年度打ち上げ予定(2024年3月12日) 数回の直接伝送が必要な量のデータを1回の衛星間光通信で伝送することに成功JAXAは将来の宇宙における高速大容量通信を見据えてNECとともに光衛星間通信システム「LUCAS」の開発を進めています。「だいち4号」に搭載されているOLLCTはLUCASで使用される送受信機で、静止衛星用光ターミナル「OGLCT」を搭載した静止軌道上の「光データ中継衛星」との間で光衛星間通信に成功したことが2024年10月にJAXAから発表されていました。
先進レーダ衛星「だいち4号」が静止衛星との間で光衛星間通信に成功(2024年10月8日)その後も技術実証を続けてきたJAXAは、「だいち4号」が北極からヨーロッパを経てアフリカ大陸へと縦断するようにして30分間にわたり取得した観測データを、「光データ中継衛星」との衛星間光通信を経由して地上局へと即時的に伝送することに成功したことを今回発表しました。
衛星間光通信ではそれぞれの軌道を毎秒数kmの速度で移動する衛星から衛星に向けて、約4万km先(「だいち4号」から「光データ中継衛星」までの距離に相当)でも幅500mほどにしか広がらないレーザー光を正確に照射し続ける必要があるため、レーザー光の増幅技術や通信相手の衛星を補足・追尾する技術が必須となります。
「だいち4号」は地上局との間でKa帯(26GHz帯)の電波を用いた通信速度3.6Gbpsの高速データ転送が可能であり、2024年12月には「最速の地球観測衛星から地上局への直接伝送」としてギネス世界記録にも認定されています。ただし、「だいち4号」が軌道を1周するのにかかる約90分のうち、地上局から見通せる時間は1回10分程度に限られています。
先進レーダ衛星「だいち4号」がギネス世界記録に認定 その理由は?(2025年1月25日)一方、LUCASを使用した衛星間光通信の通信速度はKa帯を用いた直接伝送の半分となる1.8Gbpsではあるものの、「光データ中継衛星」と通信できる時間は軌道1周の約半分、1回40分程度にまで長くなります。そのため、地上局との直接伝送では数回に分けないと送れない量のデータを、衛星間光通信による「光データ中継衛星」経由では1回の通信で送ることができたということです。
1回の通信可能時間が長い衛星間光通信には、地上局と直接通信できない場所で取得したデータをリアルタイムで伝送したり、緊急時にコマンドを送信して迅速に画像を取得できるなどのメリットがあるといいます。JAXAは今回の成功を受けて、関係機関や協業先と連携しながら衛星間光通信の技術開発をさらに加速し、日本の宇宙開発の発展に引き続き貢献していくと述べています。
Source
JAXA - 1.5μm衛星間光通信を使った超大容量ミッションデータ伝送に世界で初めて成功文・編集/sorae編集部