その美しさから宝飾品に広く用いられる宝石の代表格であると同時に、硬度が非常に高いことから切削工具や研磨材などにも利用されているダイヤモンド。そんなダイヤモンドの微細な粒子が大気中を浮遊している惑星が、この宇宙ではめずらしくないのかもしれません。
国立天文台科学研究部の大野和正特任助教は、太陽系外惑星の大気中を漂うヘイズ(もや)の形成に関する理論モデルを考案してヘイズを構成する物質の分析を行ったところ、従来予想されていなかったダイヤモンドが形成されやすい可能性が示されたとする研究成果を発表しました。
大野さんの論文によると、炭素を含むメタンのような分子が存在する太陽系外惑星の水素が豊富で高温な大気は、ダイヤモンドを合成する方法のひとつであるCVD法(※1)の環境によく似ているのだといいます。CVD法は低圧環境下で水素とメタンの混合ガスからダイヤモンドを堆積させる技術で、ダイヤモンドの薄層を形成した電子デバイス向けの基板の製造などに用いられています。
分析の結果、このような大気中のヘイズは温度が1200ケルビン(約930℃)以上かつ炭素が豊富な条件下では煤(すす)が主成分になる可能性があるものの、その他の様々な条件下ではダイヤモンドのほうが煤よりも成長しやすい可能性が示されました。
太陽以外の恒星を周回する惑星が初めて見つかってから今年(2025年)で30年。太陽系外惑星は研究者の注目を集める天体ですが、光化学によって生成される大気中のヘイズが何でできているのかは不確実なままだったと、大野さんは論文で指摘。これまでは煤やソリン(※2)のように光を吸収しやすい“黒っぽい物質”が予想されていたものの、最近の「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」による観測結果から、幾つかの太陽系外惑星では光を反射しやすい“白っぽい物質”でできている可能性が示されていたといいます。
光を反射しやすい物質でできたヘイズが生成されやすいとすれば、その惑星はヘイズが無い場合と比べてより明るく観測される可能性がありますし、惑星が吸収する熱の量にも影響するかもしれません。このように、ヘイズや雲は太陽系外惑星の観測結果だけでなく、大気の化学組成や循環、惑星の熱進化(惑星の表面や内部の温度変化の歴史)といった惑星の特性そのものにも影響を及ぼすため、その組成や形成プロセスを理解することは重要です。今後は観測や実験を通じて実際にダイヤモンドが合成されるかどうかを検証することで、太陽系外惑星のヘイズの正体に迫ることができると期待されています。
太陽系の“常識”では推し量れない太陽系外惑星の世界。環境によっては「WASP-76b」のように溶けた鉄の雨が降っている可能性さえありますが、直接観測する手段を持たない今の人類は観測データと理論を積み重ねて推測するしかありません。その真の姿を明らかにしようと挑む研究のさらなる成果に期待したいですね!
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※2…メタンなどの単純な有機化合物が紫外線を受けることで生成される高分子化合物の総称。
Source
国立天文台科学研究部 - ダイアモンドの舞う惑星—太陽系外惑星の“もや“に対する新たな見解— Kazumasa Ohno - Photochemical Hazes in Exoplanetary Skies with Diamonds: Microphysical Modeling of Haze Composition Evolution via Chemical Vapor Deposition (The Astrophysical Journal)文/ソラノサキ 編集/sorae編集部