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小惑星Bennuのサンプルから生命に関連した多様な有機化合物を検出 NASA探査機がサンプル採取

sorae.jp 2025年1月31日 10時31分

私たち人類を含む地球の生命はどのようにして誕生したのか、そんな“究極の疑問”にまた一歩迫る研究成果が発表されました。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は2025年1月29日付で、NASAの「OSIRIS-REx(オシリス・レックス、オサイリス・レックス)」ミッションで採取・回収された小惑星「Bennu(ベンヌ、ベヌー)」のサンプルから多様な有機化合物が検出されたとする、NASAゴダード宇宙飛行センターのDanny Glavinさんを筆頭とする国際研究チームの成果を紹介しています。

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査ミッション「OSIRIS-REx」探査機の2年以上にわたる観測データをもとに作成された小惑星「Bennu」の全体像(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)】 Bennuのサンプルから33種類のアミノ酸や5種類の核酸塩基などを検出

研究チームによると、Bennuのサンプルからは合計33種類のアミノ酸が検出されていて、その中には地球の生命がタンパク質を構成するために利用している20種類のうち14種類が含まれています。アミノ酸の他にも、地球の生命がDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)で利用している5種類の塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル)もすべて検出されました。

また、今回の研究ではBennuのサンプルからホルムアルデヒドが検出されるとともに、高い濃度でアンモニアが含まれていることもわかりました。ホルムアルデヒドとアンモニアは適切な条件が整えば反応してアミノ酸などの複雑な分子を形成することができる物質です。所属する研究員が今回の研究に参加した海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、Bennuのサンプル中のアンモニア濃度はこれまでに分析された炭素質隕石や小惑星「Ryugu(リュウグウ)」のサンプルと比べて特異的に高く、低温環境のアンモニア溶液中で有機化合物が生成されたという知見が得られたと述べています。

【▲ 回収カプセルのサンプル保管容器から取り出された小惑星探査ミッション「OSIRIS-REx」探査機のサンプル採取装置。この時点ではBennuのサンプルの大部分がまだ採取装置の中にあった(Credit: NASA/Erika Blumenfeld & Joseph Aebersold)】

この宇宙にはもともと水素やヘリウムばかりが存在していたものの、そこから誕生した恒星内部の核融合反応や超新星爆発などの高エネルギー現象を通じて様々な元素が生成されていき、宇宙へ広がっていったと考えられています。「生命は星屑から生まれた」と表現することがあるのは、こうした理解に基づいています。

今回の研究成果は、恒星が生み出した炭素・酸素・窒素・硫黄・リンといった元素から生命が誕生する過程の一端を垣間見るものとなります。BennuやRyuguのような小惑星は形成当初の地球に水や有機化合物を運び込む役割を果たしたと考えられていますが、そのBennuのサンプルから多様なアミノ酸や核酸塩基が見つかったことは、生命の材料が宇宙から地球にもたらされたという考えをいっそう支持するものとなります。さらに、こうした物質が地球上ではなく宇宙空間で生成されていたのだとすれば、地球以外の惑星や衛星でも生命が誕生した可能性が高まることになります。

太陽系では火星をはじめ、木星の衛星Europa(エウロパ)や土星の衛星Enceladus(エンケラドゥス)などで生命が誕生した可能性、場合によっては今も生息している可能性が指摘されています。今回の研究では生命の痕跡そのものが見つかったわけではありませんが、生命が誕生するのに必要な条件が初期の太陽系全体に広がっていた可能性を示すものであり、今後の太陽系内における地球外生命の探索にも影響しそうです。

地球の生命が利用するアミノ酸の鏡像異性体に関する謎はいっそう深まる

その一方で、謎を深める発見もありました。複数の原子が立体的に組み合わさっているアミノ酸には、その構造がまるで鏡写しになっていて重ね合わせられない関係にあるものが存在します。このような性質は「キラリティ(chirality)」、キラリティを持つ分子は「キラル分子(chiral molecule)」と呼ばれています。キラル分子には鏡像関係にある2種類の異性体「鏡像異性体(光学異性体)」があり、それぞれ「左型(L型)」と「右型(D型)」に分類されています。

【▲ アミノ酸の一種であるアラニンの鏡像異性体を示したイラスト(Credit: 国立天文台)】

地球の生命は左型のアミノ酸を利用するように進化しましたが、その理由はよくわかっていません。鏡像異性体の偏りは「ホモキラリティ(homochirality)」と呼ばれていて、隕石に含まれるアミノ酸にも同様の偏りがみられることが知られています。最近では恒星や惑星が誕生する場所である星形成領域の観測結果から、星形成領域の円偏光(振動方向が円を描くように変化しながら伝播する電磁波)の作用によって片方の鏡像異性体が分解されやすくなったことで、宇宙空間で偏りが生じたのではないかとも指摘されていました。

ところが、今回分析されたBennuのサンプルには、左型と右型のアミノ酸がほとんど均等に含まれていました。ということは、形成当初の地球では左型と右型のアミノ酸が均等に存在していた可能性が出てくるのです。今回の研究成果は、アミノ酸のホモキラリティの起源に関する謎をさらに深めることとなりました。

現在、NASAと欧州宇宙機関(ESA)は(予算やスケジュールに関連した再検討を交えつつも)火星表面からのサンプルリターンミッションを進めています。また、2度の小惑星サンプルリターンミッションを成功させた宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、火星衛星探査計画「MMX(Martian Moons eXplorer)」で火星の衛星「Phobos(フォボス)」からのサンプルリターンを目指しています。これらのミッションで回収されたサンプルもまた貴重な知見をもたらしてくれるはずです。私たちは生命の起源にどこまで迫ることができるのか、今後の研究進展にも注目です!

OSIRIS-RExとは? 【▲ 小惑星Bennuの表面に向けて降下する小惑星探査ミッション「OSIRIS-REx」探査機の想像図(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)の「OSIRIS-REx(オシリス・レックス、オサイリス・レックス)」は、小惑星「Bennu(ベンヌ、ベヌー)」からのサンプル採取を目的に実施された小惑星サンプルリターンミッションです。日本の小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」と似たミッションであることから「アメリカ版はやぶさ」と呼ばれることもあります。

OSIRIS-REx探査機は2016年9月に打ち上げられ、2018年12月にBennuに到着。周回軌道上からの観測でサンプル採取地点の選定などを行った探査機は、2020年10月にBennu表面のサンプルを採取。2021年5月にBennuを出発した後、日本時間2023年9月24日にBennuのサンプルを収めた回収カプセルがアメリカ・ユタ州へ着陸することに成功しました。合計121.6グラムのサンプルは地球の環境で汚染されることがないよう厳重に管理された環境下でカプセルから取り出され、割り当てられた研究者による分析が進められています。

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターの専用クリーンルームに設置されたグローブボックスでOSIRIS-REx探査機のサンプル容器から採取装置が取り外された時の様子(Credit: NASA)】

なお、回収カプセルを分離した後のOSIRIS-REx探査機本体は地球を離脱し、小惑星「Apophis(アポフィス)」の探査を目指して飛行を続けています。ミッション名も「OSIRIS-APEX(オシリス・アペックス、オシリス・エイペックス)」に改められており、探査機は2029年にApophisへ到着する予定です。

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Source

NASA - NASA’s Asteroid Bennu Sample Reveals Mix of Life’s Ingredients JAMSTEC - 小惑星ベヌーにアミノ酸など多くの生体関連分子が存在! Glavin et al. - Abundant ammonia and nitrogen-rich soluble organic matter in samples from asteroid (101955) Bennu (Nature Astronomy)

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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