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ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた若き星「HH 30」 惑星形成を理解する手がかりに

sorae.jp 2025年2月8日 18時47分

こちらは「おうし座(牡牛座)」の方向約477光年先の若い星「HH 30」の様子です。左右に走る中央の暗い線を境目に、青白い傘や赤い柱のような構造が上下に対称的に広がった複雑な構造をしています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された若い星「HH 30」(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, Tazaki et al.)】

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータを使って作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は主に赤外線の波長で観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。

多波長観測の一翼を担ったウェッブ宇宙望遠鏡がHH 30の多様な構造を捉えた

画像を公開した欧州宇宙機関(ESA)によると、誕生して間もない星であるHH 30は、ガスや塵(ダスト)が集まってできた原始惑星系円盤と呼ばれる円盤構造や、流出するガスの流れである円盤風に囲まれています。地球はHH 30の原始惑星系円盤を横から見る位置関係にありますが、塵が豊富な円盤は光をさえぎるため、画像では直線状の暗い影のように見えています。

赤い柱のような構造はHH 30から双方向に放出されているジェット(細く絞られた高速なガスの流れ)で、衝撃波の作用で光を放つハービッグ・ハロー天体(※)として観測されています。HH 30そのものは見えていませんが、このジェットの根元に位置しています。また、青白い傘のような構造は、塵の小さな粒子(マイクロメートルサイズ)の分布に対応しています。

※…ハービッグ・ハロー(Herbig-Haro)天体:若い星の周囲に見られる明るい星雲状の天体。若い星は周囲の物質を取り込んで成長するかたわら、星風やジェットとしてガスを流出させてもいて、流れ出たガスは周囲のガスや塵に衝突して衝撃波を形成します。衝突された物質は励起して光を放出しますが、この光がハービッグ・ハロー天体として観測されていると考えられています。

最近、東京大学大学院総合文化研究科の田崎亮助教を筆頭とする研究チームが、ウェッブ宇宙望遠鏡やチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」で取得したHH 30の観測データを分析した研究成果を発表しました。次の画像では、ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡、それに「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」によるHH 30の観測データが示されています(右側の大きな画像は冒頭に掲載したものと同じ)。

【▲ さまざまな望遠鏡で観測された若い星「HH 30」。左上:ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の可視光、中央上:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線、左下:ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線、中央下:アルマ望遠鏡(ALMA)のミリ波による観測結果。右は冒頭の画像と同じもの(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, ESA/Hubble, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))】

電波(ミリ波やサブミリ波)で観測を行うアルマ望遠鏡のデータが描き出した真一文字は、円盤の中心面に集まっている塵の大きな粒子(ミリメートルサイズ)の分布を示しています。

また、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測では、ジェットに付随する円錐状のアウトフロー(ガスの流れ)や、原始惑星系円盤上面のスパイラル(らせん)状構造といった様々な構造も捉えることができたといいます。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された若い星「HH 30」(英語注釈付きバージョン)(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, Tazaki et al.)】

研究チームはこうした多波長の観測データを組み合わせることで、ミリメートルサイズにまで成長した塵の粒子が原始惑星系円盤の内部を移動し、最終的に薄い層を形成するように沈殿する様子を明らかにすることができたといいます。惑星の形成過程ではこのように狭く密集した塵の層が重要で、塵が集まって小石に、岩に、微惑星にと成長していき、やがて惑星が誕生することになると考えられています。

ウェッブ宇宙望遠鏡による他の原始惑星系円盤の観測ではミリメートルサイズの粒子が沈殿していないケースもあることが明らかになっているといい、天体ごとの違いの起源、それに固体の微粒子の性質や沈殿する過程のモデルを詳しく精査することで、惑星のもとになる微惑星がいつどこでどのように形成されたのかを解明する取り組みが進むと期待されています。

いろいろな波長で観測する望遠鏡がいくつも協力することで成果をあげている多波長天文学には、チームワークが生み出す力強さを感じます! その一端を担ったウェッブ宇宙望遠鏡による冒頭の画像は、ESAから“ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の今月の画像”として2025年2月4日付で公開されています。

ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した“とも座”の渦巻銀河「NGC 2566」(2024年12月27日) 若き原始星の産声 ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したハービッグ・ハロー天体「HH 211」(2023年9月21日)

 

Source

ESA/Webb - Webb investigates a dusty and dynamic disc 東京大学 - 【研究成果】宇宙・地上望遠鏡が明らかにした原始惑星系円盤の横顔 ──惑星の種の空間分布の進化── Tazaki et al. - JWST Imaging of Edge-on Protoplanetary Disks. IV. Mid-infrared Dust Scattering in the HH 30 Disk (The Astrophysical Journal)

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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