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新生か復活か 中国が「開拓」の名を冠するロケットを打ち上げ

sorae.jp 2017年3月4日 12時0分

日本時間3日8時53分、甘粛省の酒泉衛星発射センターから、一基のロケットが打ち上げられました。ロケットの名前は、中国航天科工(CASIC)の発表では「開拓運載火箭」、解放軍報の記事では「開拓二号」とも書かれています。搭載物は技術実証用小型衛星「天鯤一号(Tiankun-1)」。ロケットの開発母体は、「快舟」ロケットを手掛けた中国航天科工四院、衛星開発には北斗航法衛星の原子時計製造などを手掛ける中国航天科工二院と、いずれも中国航天科工集団傘下が担当したものとのことです。

 

 

航天科工集団が進める「5大宇宙輸送システム計画」

航天科工集団は現在、積極的な宇宙産業戦略を進めています。そのうちの宇宙輸送分野では、5つの打上げシステムを軸にサービス展開を図る考えで、そのうちの一つ、「快舟」計画は、これから市場拡大が見込まれる小型衛星分野での打ち上げサービスを見据えた計画となっています。

 

そのほかの計画は、「羽舟」「巧舟」「軽舟」、そして「開拓」とつけられています。今回打ち上げられた「開拓二号」ロケットは、この5大宇宙輸送戦略の一環として開発されたもののようです。なお、「羽舟」計画は電磁カタパルト射出方式による電気推進ロケットの開発、「軽舟」計画は同じ射出方式による液体燃料ロケット開発であることなどが過去に報じられています。

 

今回打ち上げられた「開拓二号」ロケットについて、公式情報では700キロメートルの太陽同期軌道に250キログラムの打上げ能力を有する、汎用固体燃料ロケットと説明されています。「快舟一号甲」ロケットが同じ軌道に200キログラム以下、「快舟十一号」が1000キログラムの打ち上げ能力ということなので、「開拓二号」ロケットは「快舟一号甲」よりもやや打ち上げ能力が高く、今後の改良次第では「快舟一号甲」と「快舟十一号」の間を埋めるような運用が考えられるロケット、といえます。もしくは、今後「快舟」ロケットは中型までの衛星打上げに対応し、「開拓」ロケットは小型に特化することも考えられます。

 

過去にもあった「開拓者」というロケット計画

ところで、航天科工集団の5大宇宙輸送システム計画の内、「開拓」だけが計画名に「舟」の字が付いていません。「開拓」という名前には、何か特別な意味が込められているのでしょうか。というのも、過去に中国で「開拓者」という名称のロケット開発計画があったのです。

 

「開拓者一号」ロケット計画は、四段構成で全段が固体燃料を使用し、約100キログラムの小型衛星を低軌道に投入できるというものでした。計画は1990年代初頭に立案されたものの順調とはいえず、1999年に当時の中国航天工業総公司が中国航天科技(CASC)と中国航天機電(航天科工の前身)に分割再編されたのち、航天科工側が主体となって計画を進めることになったという経緯があります。

 

「開拓者」ロケットは、2002年の珠海エアショーで模型が展示されるなど、航天科工としては力を入れていた計画だったようです。開拓者一号の他にも、さらに大型の開拓者二号、その増強版である開拓者二号甲という開発計画があり、その機体の模型も展示されていました。

 

しかし、2002年に打ち上げられた1号機は失敗、その後も2003年にかけて3機が打ち上げられましたが、成功率は5割という結果に。実用化には程遠いと判断されたのか、「開拓者」計画はその後鳴りを潜めます。しばらくして、2007年に中国が衛星破壊実験を行い、国際的に非難されましたが、この時に使われた機体が「開拓者」系のロケットだったとも言われています。

 

航天科工の衛星打上げ用固体燃料ロケット開発は、のちに即応衛星打ち上げロケット「快舟」という新たな形で表に現れることになります。2013年に快舟一号が打ち上げに成功、14年には快舟二号を成功させ、今年1月には快舟一号甲ロケットで小型衛星3機の同時打上げに成功と、着実に実績を重ねてきました。年内には打ち上げ能力を増した快舟十一号の打ち上げを控え、さらには快舟二十一号の開発計画も明らかになっています。

 

 

「快舟」「開拓」とこれからの宇宙戦略

ちなみに、「開拓者一号」ロケットは弾道ミサイル東風31(DF-31)をベースにした機体と目されていました。また、快舟一号・一号甲ロケットは東風21(DF-21)をベースにしていることが、快舟ロケット打上げサービスを担当する航天科工火箭技術有限公司(エクスペース・テクノロジー)によって明らかにされています。「開拓二号」ロケット開発の経緯など詳細についてはまだ明らかにされていませんが、「快舟」ロケット開発で培った技術がフィードバックされていることも十分に考えられます。

 

そもそも中国では各産業に「軍民両用」を奨励している一面があり、航天科工がその路線に沿って宇宙ビジネス拡大に乗り出していることは特に不思議なことではないと言えます。

 

ともかくも航天科工は当面、主力の宇宙輸送サービスに、固体燃料エンジンという安定した技術による「快舟」「開拓」ロケットで展開し、今後を見据えて「羽舟」「軽船」で先端技術をつぎ込んだ宇宙輸送システムを開発して多様なニーズに対応する、といった事業戦略をとるものと思われます。

 

これらに加え、すでに衛星IoT網計画にも着手、このほか独自の大規模通信衛星網構築やスペースプレーン開発、気球やドローンを用いた即応ネットワークサービスといった計画も策定中とのことで、どのように宇宙産業を「開拓」していくのか注目されます。
Image Credit: CASIC

 

解密“天鯤一号”与開拓運載火箭
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