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太陽系最大の謎、金星の気流に新発見 北海道大学とJAXAが発表

sorae.jp 2017年8月30日 16時48分

 

北海道大学の堀之内武准教授は2017年8月29日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」の観測により、金星にこれまで知られていなかったジェット気流が発見されたことを、JAXAと共同で発表した。

太陽系最大の謎、金星の「スーパーローテーション」

金星には「スーパーローテーション」という謎の気象現象がある。太陽系惑星の気象現象の中でも最大の謎とも言われるスーパーローテーションは、「金星の自転より速く、金星を一周する風」だ。自転より速くと言っても、そもそも金星の自転は遅い。金星の1年は地球の224日にあたるが、自転周期は243日、つまり自転の方が遅いのだ。なお自転の向きが逆なので、金星上での1日の長さは地球の117日にあたる。

これほど遅いと金星は片面だけが太陽に加熱され、反対面は夜になって冷えてしまう。すると地球の赤道と北極・南極のように、昼側と夜側の空気を入れ替えるような風が吹きそうに思える。ところが実際には金星を東から西へ1周する風が、地球時間で4日前後という金星の自転より速い速度で吹いている。なぜほとんど止まっているような金星の自転の向きに、自転よりはるかに速い速度で風が吹いているのかは、現在も謎だ。

スーパーローテーションより速い、赤道ジェット気流を発見

このスーパーローテーションは過去の金星探査でわかっていたが、JAXAの金星探査機「あかつき」は新しい現象を観測した。それは、赤道付近の低層大気に、スーパーローテーションとは異なる流れがあることだった。

金星は大気が濃く雲も厚く、雲の表面の高さは高度70kmもある。地球ではほとんど真空になる高さだ。この高度ではスーパーローテーションの風が吹いているが、風速は秒速100m程度で時期や場所による違いはあまりなかった。

今回、「あかつき」は赤外線カメラを使い、高度40km以下の雲の下の風を調べた。すると、赤道付近では80m以上の強風が吹き、赤道から離れると風が弱まるという現象が発見された。このような現象はこれまで観測されたことがなかった。

過去にも2007年から2008年に欧州宇宙機関 (ESA) の金星探査機「ビーナス・エクスプレス」が同様の観測をしていたが、このような強い風は見当たらなかった。また「あかつき」で観測されたのも2016年7月~8月で、それ以前には観測されていない。スーパーローテーションと違い、吹いているときと吹いていないときがあるようだ。

増えた謎、解き明かされる謎

発見した堀之内准教授によれば、この新しいジェット気流がなぜ起きているのかはわかっていない。ただ、そもそも金星のスーパーローテーション自体が、なぜ起きているのかわかっていない謎の現象だ。

赤道付近にだけ強い風が吹くのは、力学の常識から考えると不思議だという。フィギュアスケートのスピンで手足を縮めると回転が速くなるように、回転する物体は半径を小さくすると回転が速まる。地球でも、赤道上の渦が北半球や南半球に移動すると回転が強まり、台風などの現象になる。回転が赤道上で最も強いというのは逆の現象だ。

しかし、謎が増えたことはむしろ、解明に近付くようだ。堀之内准教授は「これまで、様々な仮説に基づいてスーパーローテーションのシミュレーションが行われたが、どれが正解に近いのかはわからなかった。しかし、過去には赤道にジェット気流が起きてしまうシミュレーションが、非現実的だと却下されたこともある」と説明し、金星研究の進歩への期待を語った。

金星大気の研究は地球の役に立つか

ところで、金星の謎が明らかになったら何の役に立つか、と考える方もいるだろう。ここからは筆者の考えだ。

金星大気のシミュレーションプログラムは、基本的に地球上の天気予報に使われているものと同じ原理だ。もちろん実物の金星も、物理法則は地球と同じ。なのにどうしてこれほどまでに違う環境になっているのだろうか。

我々地球人は、地球の気象現象が当たり前だと思って生きている。しかし宇宙には様々な星があり、気象現象も異なる。地球の気象は当たり前ではなく、たまたまこうなっているだけとも言えるだろう。そこで、地球ではありえない金星の気象現象を調べることで、今までは思いもよらなかった気象の原理が発見されるかもしれない。そして、それは気付いていなかっただけで実は地球にもあり、今まで解明されていなかった気象現象が解明されるかもしれない。

宇宙を知ることは地球を知ることでもある。地球の兄弟星・金星を知ることで、地球の理解も深まることに期待したい。

Image Credit: JAXA/ISAS, PLANET-C Project Team

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