米サウスウエスト研究所のKurt Retherford氏は、今年で打ち上げから10週年を迎えるNASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載された観測機器「LAMP」を用いて、月の昼間における水分子のより正確な測定に挑戦。その結果、月の表面に存在する水分子の振る舞いが明らかになりました。
観測結果によると、月の表面にごくわずかに存在している水分子は、月の夜間から正午頃までは「レゴリス」と呼ばれる砂や粉塵でできた堆積物に吸着していますが、太陽によって十分に温められた正午過ぎになると、熱の作用によってレゴリスから水分子が飛び出します。あまり温まっていない場所にたどり着いて再びレゴリスに吸着するものもあれば、再び月面に落下するまで極めて希薄な月の大気を漂うものもあるようです。
サウスウエスト研究所で「LAMP」を運用するチームに所属するMichael Poston氏によると、こうした「ホッピングする水分子」の存在は過去の研究でも報告されていましたが、その量は既知の物理的過程では説明できませんでした。「ルナー・リコネサンス・オービター」の「LAMP」による観測で明らかになった水分子の振る舞いはこれらの研究とも矛盾せず、氏は今回の結果を受けて「興奮している」と語ります。
しかし、今回観測された水分子の供給源が月面のレゴリスだとは限りません。太陽から月面に届く太陽風にも水素イオンが含まれているため、太陽風に由来する可能性もあります。仮に昼間の水分子が太陽風によって作られているとすれば、太陽風が届かなくなると水分子の量も減るはずです。
そこで、地球によって月に降り注ぐ太陽風が遮られるタイミングに合わせて「LAMP」による観測を実施したところ、水分子の量は減りませんでした。このことから、少なくとも太陽風によって直接生み出されているわけではないことが確認されました。
JAXAも建設への参加を表明している「月軌道プラットフォームゲートウェイ(LOP-G)」をはじめ、アポロ計画以来途絶えていた月の有人探査に向けた動きが世界規模で進められています。先日もトヨタとJAXAが国際宇宙ミッションにおける協業の検討で合意したことを発表しましたが、再び月面に人が降り立つ日も、そう遠からずにやってくるはずです。
水は、生命の維持、燃料の製造、熱の循環、放射線の遮蔽など、さまざまな用途に用いることができます。月の水資源に関するこうした研究の成果は、やがて始まる有人探査で月面の水を活用する方法を見出す上で、力強い助けとなるでしょう。
Image credit: NASA
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2019/lro-sheds-light-on-lunar-water-movement
文/松村武宏