2019年3月20日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星「リュウグウ」の観測成果をもとにした3編の論文が「サイエンス」誌のWebサイトに掲載されたことを発表しました。
その内容を簡単にまとめると、以下のようになります。
・リュウグウが今の姿になった過程を分析
・リュウグウの表面に水分を含む鉱物(含水鉱物)を発見
・リュウグウの観測からその元になった天体(母天体)の歴史を推測
特に注目を集めているのは、2番目の「水分を含む鉱物の発見」です。
「はやぶさ2」がリュウグウに到着して間もない2018年8月の時点では水の痕跡が確認されず、一旦は「表面の水は予想よりも枯渇しているようだ」と判断されていました。その後、リュウグウの表面から反射された赤外線を詳しく分析したところ、「水酸基(-OH)」の形で水を内部に取り込んだ鉱物の存在を示すデータが得られたのです。
水酸基を含む鉱物は「含水鉱物」と呼ばれ、地球では蛇紋石(サーペンティン)や雲母などが知られています。下の画像の3段目(EおよびF)は、水酸基が特定の波長(2.72マイクロメートル)の赤外線を吸収する強さの度合い、すなわち含水鉱物が分布する様子を示したものです。
誕生したばかりの地球には、水がほとんどありませんでした。現在の小惑星帯よりも内側では、水は太陽がもたらす熱によって水蒸気になってしまうからです。しかし、現在の地球には生命を育めるだけの水があります。もともとなかったはずの水が存在するということは、どこかから水が持ち込まれたことを意味します。
この水の供給源として有力視されているのが、含水鉱物が存在する「C型」の小惑星です。C型小惑星そのものやその破片が衝突したことで、鉱物中に取り込まれていた水も一緒にもたらされたのではないかと考えられているのです。
C型小惑星の1つであるリュウグウでの水(含水鉱物)の発見が注目されている背景にはこうした理由がありますが、「はやぶさ2」による探査活動とそこから得られる知見を考慮すると、3つの論文は重要なものばかりです。
1つ目の論文にまとめられた研究によると、リュウグウの表面では100万年以下で物質が入れ替わっており、特に赤道付近からは風化の影響が少ない「新鮮」な試料を採取できる可能性が示されました。
大成功を収めた2月22日の第1回タッチダウンは、この点も考慮して選ばれた候補地点「L08」の一角で実施されています。その形が「コマ(独楽)」や「そろばん玉」にたとえられるリュウグウの形成過程に迫った研究が、回数の限られているタッチダウンでより良い成果を得るために活かされた形です。
また、3つ目の論文では、リュウグウの母天体がどのように形成されたのかを推測しています。地球の水が本当にC型小惑星からもたらされたのか、だとすればどのくらいの水がC型小惑星に由来するのかを知るためには、リュウグウの母天体となった小惑星についても探る必要があるからです。
この研究により、リュウグウの母天体候補は「ポラナ」および「オイラリア」という2つの小惑星に絞り込まれました。「はやぶさ2」が持ち帰った試料を分析することで、どちらからリュウグウが誕生したのかがはっきりするかもしれません。
地球の水の起源につながる「はやぶさ2」のリュウグウ探査。4月5日には、いよいよ「衝突装置(SCI)」による人工クレーターの生成ミッションが実施される予定です。
Image credit: K. Kitazato et al.
http://www.jaxa.jp/press/2019/03/20190320a_j.html
文/松村武宏