こちらの画像は、NASAの土星探査機「カッシーニ」が近赤外線で撮影した土星の衛星「タイタン」の姿。左上で太陽光を反射しているのは、タイタン最大の湖「クラーケン海(Kraken Mare)」の湖面です。
1997年10月に打ち上げられたカッシーニは2004年6月から2017年9月までの13年間に渡り、土星とその衛星を観測し続けました。その最後の年の4月に実施されたタイタンのフライバイ時における観測データから、タイタンに点在する湖のこれまで知られていなかった特徴が幾つか明らかになりました。
Nature Astronomyに掲載された論文によると、北半球にある湖の幾つかは水深100mを超えており、西側に見られる小さな湖はタイタンの海抜よりもずっと高い丘や台地の上に存在しています。その成分のほとんどが、炭化水素の「メタン」で占められていました。
いっぽう、南半球にある「オンタリオ湖(Ontario Lacus)」(地球のオンタリオ湖にちなんだ名称です)ではメタンと「エタン」の割合がほぼ半分ずつであることがすでに判明しており、地域によって湖の成分に違いがあることがわかりました。研究に携わったコーネル大学のJonathan Lunine氏は「北米とアジアの地質学的環境がまったく異なるようなもの」と表現しています。
同じくNature Astronomyに掲載された別の論文では、一部の湖における湖面の激しい変化が明らかにされています。ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のShannon MacKenzie氏は、季節の変化に応じてメタンやエタンが蒸発したり地下に浸透したりしている可能性を指摘しています。
2本の論文は、タイタンでは地球の水のように炭化水素が循環しているとする説を補強するものとなります。炭化水素の雨が湖を形成し、蒸発して再び雨が降る、というわけです。地球の常温・常圧下では気体として存在するメタンやエタンも、寒いタイタンの地表では地球におけるガソリンのように、液体として存在することができます。
タイタンの地形は以前から地球との類似性が注目されてきましたが、発表では「丘の上にある、小さいながらも深い湖」という特徴が、ドイツ、クロアチア、アメリカなどで見られるカルスト地形の特徴に似ているとされています。
また、カルスト地形の一種であるポリエと呼ばれる窪地では、長い雨が続く季節には氾濫が発生したり、時には湖のように水が溜まったりすることがあります。タイタンの大地には、地球のカルスト地形に似た場所がよく見られるのかもしれません。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/Univ. Arizona/Univ. Idaho
https://www.jpl.nasa.gov/news/news.php?feature=7378
文/松村武宏