ESA(欧州宇宙機関)は4月22日、同月5日に実施されたJAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星「リュウグウ」への人工クレーター生成実験を受けて、NASAと共同で実施する予定の小惑星探査計画「AIDA(Asteroid Impact and Deflection Assessment)ミッション」に関する解説をリリースしました。
AIDAミッションは、NASAの「DART」(Double Asteroid Redirect Testの略)とESAの「Hera」(ギリシア神話の女神ヘラより)という2機の探査機によって遂行されます。探査目標は、1996年に発見された地球近傍小惑星「ディディモス(Didymos)」。その直径は推定780mで、通称「ディディムーン(Didymoon)」と呼ばれる直径160m程度の衛星を伴っています。
まず、2020年12月から翌年5月までの間に、NASAのDARTが打ち上げられます。イオンエンジンを使って地球を離脱したDARTはディディモスへと向かいますが、その周回軌道に乗ることもフライバイ探査もすることなく、秒速6kmという速度を保ったままでディディムーンに衝突してその任務を終えます。衝突の実施は2022年10月7日に予定されています。
続く2023年には、詳細な観測を担当するESAのHeraが打ち上げられます。2026年にディディモスの周回軌道へと入ったHeraは、4年前にDARTが形成したディディムーンの新しいクレーターを含む地表の様子、内部構造、質量などを探査するとともに、搭載してきたキューブサットと連携した実験などを行う予定です。
こちらはディディムーンを観測するHeraの想像図。DARTの衝突によって形成されたクレーターや、到着後にHeraから放出されたキューブサットが描かれています。
AIDAミッションで衝突を担当するDARTの重量は550kg。2kgだったはやぶさ2の「衝突装置(SCI)」よりもかなり重く、また標的となるディディムーンはリュウグウよりも小規模です。
はやぶさ2のミッションと比較して「200倍も重い物体を3倍の速度で5分の1スケールの天体に衝突させる」ことになるため、ディディムーンの軌道には地球上の観測所でも識別できるレベルのズレが生じると予想されています。さらに、Heraによってディディムーンの質量やその構造などを直接調べることで、軌道のズレをより正確に算出することが可能となります。
大規模な災害を起こしかねない天体の軌道をそらし、地球への衝突を防ぐ方法につなげることを目指すAIDAミッション。まずは来年末に打ち上げが予定されているDARTの衝突ミッションに注目です。
Image credit: ESA–ScienceOffice.org
https://www.esa.int/Our_Activities/Operations/Space_Safety_Security/Hera/Earth_vs._asteroids_humans_strike_back
https://www.nasa.gov/planetarydefense/dart
文/松村武宏