こちらの画像に写っているのは、NASAの火星探査機「インサイト」が火星の地表に設置した火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」です。正確に言うと、写っているのは風や熱による影響を防ぐためのカバー。地震計本体はカバーの中にあって、直接見ることはできません。
4月24日、NASAは火星において発生した地震波らしき振動をインサイトによって初めて観測したと発表しました。主任研究員であるBruce Banerdt氏の「火星地震学の幕開け」という言葉とともに、リリースには「marsquake」(火震)という単語も登場しています。
インサイトを運用しているジェット推進研究所(JPL)のYouTubeチャンネルでは、今回キャッチされた地震波らしき振動を音声に変換した動画が公開されています。動画には火星の風による振動とインサイトのロボットアームが動いたときの振動もあわせて収録されていて、それぞれの違いを聴き比べることができます。
昨年11月に火星のエリシウム平原へと着陸したインサイトには、火星の内部を調べるための火星地震計「SEIS」、地中熱流量計測装置「HP3(Heat Flow and Physical Properties Package)」、2つの観測機器を火星の地表に降ろしてセッティングするためのロボットアームなどが搭載されています。
今回発表された地震波らしき振動は、地球の4月6日、インサイトの活動における128ソル目(1ソルは火星の1日)に観測されました。JPLが公開した動画を見てもわかるように、そよそよとなでるような風の振動とも、ましてやロボットアームが立てるいかにも人工的な振動とも異なり、長いスパンでゆるやかに強まり弱まるこの振動は、火星の地中から伝わってきたものと考えられています。
同様の振動は3月から4月にかけて合計4回検出されていますが、いずれも非常に弱く、地球であればさまざまなノイズにまぎれてしまう程度の振動でしかありません。また、捉えた振動が本当に地震波なのかどうかも、現時点ではまだ確認中の段階です。
火星では星自体が冷えて収縮していく過程で蓄積されるストレスが原因で地震が発生すると考えられてきましたが、今までは地震波の観測例がなく、あくまでも理論上の仮説でしかありませんでした。
今回観測された振動が本当に「火震」であれば、冒頭に紹介したBanerdt氏の言葉通り、まったく新しい学問の歴史がスタートした瞬間に私たちは立ち会っているのかもしれません。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-s-insight-lander-captures-audio-of-first-likely-quake-on-mars
文/松村武宏