こちらは、NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」によって撮影された、月の「雨の海」にそびえる「ピトン山」の南側付近を拡大した画像です。白っぽい部分が、太陽光を受けて明るく見えるピトン山の斜面。画像の右から下にかけて、起伏の穏やかな雨の海の大地が広がっています。
雨の海は、海と呼ばれる月の平原のなかでも2番目に大きなもので、1971年7月には月面車を初めて搭載したアポロ15号が着陸しています。およそ38億6000万年前に衝突した小惑星によって形成された直径1000kmを超える盆地が火山活動によって徐々に埋められていき、雨の海へと姿を変えたと考えられています。
溶岩に満たされたことで、盆地の地形は大きく変化しました。かつてのピトン山はその頂が盆地の底から5kmもの高みにあったようですが、麓が溶岩によって埋め立てられたことで、現在は雨の海の地表から2.3kmまで低くなっています。
火山活動がおさまってからも、月の表面はダイナミックに変化しました。厚い大気を持たない月では、石ころのような小さな天体でもやすやすと地表に衝突するからです。画像の左下、山腹と平原の境界あたりにある直径770mのクレーターに注目すると、天体が落下したときの衝撃に誘発された山腹の土砂崩れによって、クレーターの一部が埋められている様子が確認できます。
また、冒頭の画像よりも少し北側の山腹を拡大したこちらの画像では、ピトン山から転げ落ちた岩によって刻まれた幾筋もの痕跡を見ることができます。画像の上側にあるひときわ大きな痕跡を刻んだ岩の直径は、NASAによれば「家よりも大きな」32m。JRの在来線などでは1両あたりの全長が20m前後となっているので、画像のエリアには鉄道車両ほどの巨岩が幾つも転がっていることになります。
アポロ11号による人類初の月面有人探査から、今年の7月で50年。これまでに降り立った者はわずか12人しかいない月ですが、早ければ5年後の2024年には有人探査が再開される予定です。
Image credit: NASA/GSFC/Arizona State University
https://solarsystem.nasa.gov/resources/2444/on-and-around-mons-piton/
文/松村武宏