こちらの画像は、欧州宇宙機関(ESA)の金星探査機「ビーナス・エクスプレス」に搭載されていた光学観測機器「Venus Monitoring Camera(VMC)」によって撮影された、金星の南半球です。画像に向かって右側が金星の赤道で、左側が極域になります。人の目には見えない紫外線で撮影されているため、擬似的に青を基調とした色で着色されています。
青い着色の効果もあって美しく見えますが、画像にも写っている金星の雲は、水ではなく硫酸の粒でできています。雲からは硫酸の雨も降っていますが、金星の表面温度は摂氏470度にも達するので、その雨粒は地表に降り注ぐ前に蒸発してしまいます。
これほどまでに高温なのは、大気のほとんどが温室効果ガスの代表である二酸化炭素によって占められているから。470℃といえば鉛、スズ、亜鉛といった融点の低い金属であれば溶けてしまう温度で、もっと太陽に近い水星の表面温度をしのぐほどの高温です。
地球とほぼ同じ大きさの金星はよく「地球の双子」と表現されるものの、その環境は地球とは大きく異なります。ESAも冒頭の画像に「Earth’s evil twin(地球の邪悪な双子)」というタイトルを付けているほどです。
極めて過酷な環境を持つ金星ですが、初めからこのような姿ではなかったようです。かつては金星にも地球と同じように水をたたえる海が存在していたものの、その歴史のどこかの時点で金星の大気が大量の熱を閉じ込めるようになり、過剰な水の蒸発が促され始めました。水蒸気もまた温室効果ガスの一種であるため、増えた水蒸気によって温室効果の暴走が強まり、さらに多くの熱が閉じ込められるようになって、もっと多くの水が蒸発。こうして金星からすべての海が失われ、灼熱の環境だけが残された……というのが、現在考えられている金星温暖化のシナリオです。
いま地球では、人類の文明活動による温暖化が進行しています。地球とはまったく無関係に思える金星の過酷な環境も、温室効果が進行した結果もたらされる未来の地球の姿を予想する上で、自然が用意してくれた貴重な実験室のようなものです。
ビーナス・エクスプレスの観測によって、金星の大気からは今もなお水蒸気が宇宙空間へと流出していることがわかっています。金星について深く知ることは、地球と金星が「よく似た双子」にならないためにも重要なことなのです。
Image credit: ESA/MPS/DLR-PF/IDA
https://www.esa.int/spaceinimages/Images/2019/05/Earth_s_evil_twin
文/松村武宏