2019年2月22日、イスラエルの民間宇宙団体「スペースIL」が製造した月面探査機「ベレシート」が、スペースXの「ファルコン9」ロケットによって打ち上げられました。4月4日に月周回軌道へと入ったベレシートは、同月11日に民間初の月面軟着陸に挑みたものの、残念ながら高度149mまで降下したところで通信が途絶し、月面に衝突してしまいました。
その11日後となる4月22日、NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター」が月の晴れの海にあるベレシートの着陸予定地点上空を通過する際に、光学観測機器「LROC(Lunar Reconnaissance Orbiter Camera)」を使って地表を撮影。高度90kmから撮影された画像には、ベレシートの衝突によるものと思われる痕跡が写し出されていました。
こちらの画像の中央付近、白い四角で囲まれた部分に見える黒っぽいしみのようなところが、ベレシートの衝突によって地表が荒れて、通常よりも太陽光を反射しにくくなった部分ではないかとされています。
しみのような部分の周囲から画像の左下にかけて広がる少し明るい部分は、広がっている方向がベレシートの進入方向と一致することから、衝突時に発生したガスなどか、あるいはベレシートの降下中に吹き飛ばされた微粒子などによって形成されたのではないかと考えられています。
2009年から観測を続けてきたルナー・リコネサンス・オービターは、ベレシートの着陸予定地点を含むエリアも複数回に渡り撮影してきました。着陸が試みられた2019年4月11日以前のデータは11点、以降のデータは上記の画像も含めて3点存在しています。これらを比較した結果、ベレシートの衝突によって生じうる痕跡は、この部分だけであることが判明しています。
ただ、厚い大気を持たない月面にはたびたび隕石が衝突しているので、撮影された痕跡も、たまたまベレシートの着陸予定地点付近に衝突した隕石によるものという可能性が残されています。画像からは衝突によるクレーターは確認されていませんが、クレーターが小さすぎてこの距離では識別できないだけなのかもしれません。
そのため、これが「ベレシートの衝突によるもの」とは、まだ断定することができないのです。ルナー・リコネサンス・オービターが次に晴れの海の上空を通過する5月19日には、LROCを用いた撮影が再度試みられる予定です。
また、ベレシートには、レーザー光を反射するための反射体が機体の最上部に搭載されていました。これはNASAのゴダード宇宙飛行センターから提供されたものですが、反射体が衝突を耐え抜いたかもしれないという可能性を考慮して、ルナー・リコネサンス・オービターに搭載されているレーザー高度計を使った捜索も並行して進められています。
着陸こそできなかったとはいえ、月面まであと一歩というところまで迫ったベレシート。スペースILは、早くも2機目の月面探査機製造を表明しています。最近ではAmazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏が設立したブルー・オリジンが、物資輸送から有人着陸ミッションまで多様な任務に対応する月面着陸船「ブルー・ムーン」を発表。国内でも株式会社ispaceが2021年以降の月面着陸を目指すなど、月を巡る民間の動きが活発化しています。
これまで月面への軟着陸に成功したのは、ロシア(旧ソ連)、アメリカ、中国の3か国のみ。次は誰がこの偉業を成し遂げることになるのでしょうか。
Image credit: NASA/GSFC/Arizona State University
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2019/lro-beresheet-impact-site-spotted
文/松村武宏