国立天文台は5月20日、東北大学との研究チームが「すばる望遠鏡」を使って110億年前の銀河を高解像度で観測し、星形成活動の様子を分析することに成功したと発表しました。
こちらの画像は、観測対象となった11の銀河が含まれる原始銀河団を、すばる望遠鏡に搭載されている「すばる多天体近赤外撮像分光装置(MOIRCS)」で撮影したもの。拡大して示されているのは、星形成活動の分析に用いられた「近赤外線分光撮像装置(IRCS)」によって撮影された個々の銀河の姿です。
星は、オリオン座の「オリオン大星雲(M42)」のように、ガスや塵が密集した星形成領域という場所で誕生します。星形成領域は水素原子が放つ「Hα輝線(エイチアルファきせん)」という独特な光を天体望遠鏡で観測することで、どこにあるのかを見分けることが可能です。
しかしながら、より昔の、言い換えればより遠くの宇宙に存在している銀河は非常に小さく見えるため、星形成領域を識別することが困難でした。今回の研究では、地球の大気のゆらぎによる影響を補正する補償光学装置を併用することで、110億年前という非常に遠い宇宙の銀河をIRCSによって高い解像度で観測し、星形成領域の分布を調べることに成功しています。
こちらの2つの画像は、どちらもすばる望遠鏡で同じ銀河を撮影したものです。左は補償光学装置を使わずにMOIRCSで撮影したもので、右は補償光学装置を併用してIRCSで撮影したものになります。MOIRCSでは光の塊にしか見えないはるか遠くの銀河も、人間の視力でいえば300に相当するというIRCS(補償光学装置併用)で観測することで、より詳細な構造が把握できるのです。
観測を行った11の銀河について、星と星形成領域の平均的な分布状況をそれぞれ調べたところ、銀河の中心から外側へ離れるにしたがって、星形成領域のほうがより広がっていることがわかりました。これは、銀河の外側にある星形成領域で新しく星が誕生することで、銀河のサイズが大きく成長していく様子を示しているといいます。
また、時代は同じでも銀河団のように銀河が密集していない場所にある孤立した銀河でも、星と星形成領域の分布には同じような傾向が見られることから、110億年前の宇宙における銀河は、互いの相互作用による星形成よりも、各銀河自身の星形成活動によって成長する傾向にあることが示唆されたとしています。
今回の観測対象よりも現在に近い宇宙では、「NGC 4490」と相互作用する「NGC 4485」のように、銀河どうしの相互作用によって星形成活動が活性化しているケースが観測されていますが、110億年前の銀河では自分自身の星形成活動のほうが活発な、言ってみればそれぞれが「育ち盛り」の時期にあったと言えるのかもしれません。
現在、すばる望遠鏡では次世代の補償光学技術を導入する計画「ULTIMATE-Subaru」が進められており、実現した暁には従来よりも大幅に広い範囲を一度に観測できる予定です。
今回の研究チームに所属する東北大学の鈴木智子さんは、発表に寄せたコメントで「ULTIMATE-Subaru が完成すれば、様々な環境に属するより多くの銀河について個々の構造成長の様子を詳細に捉えることができるようになるでしょう」と語っています。
観測開始から今年で20年を迎えたすばる望遠鏡。ULTIMATE-Subaruの実現によってさらにパワーアップする日が楽しみです。
Image credit: 国立天文台
https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/05/20/j_index.html
https://ultimate.naoj.org/index.html
文/松村武宏