こちらの画像は、ボーイング747を改造したNASAの成層圏天文台「SOFIA」が昨年12月に撮影した「ワータネン彗星(46P/Wirtanen)」の姿。オレンジ色のフィルターを通して撮影されているため、緑がかった実際の色合いとは異なります。
SOFIAがワータネン彗星を撮影したのは、彗星に含まれる水と地球の水を比較するためでした。ご存知のように、水は水素と酸素が結びついた水分子の集まりですが、その一部は通常の水素よりも重い「重水素」と酸素が結び付いた「重水」でできています。重水が含まれる割合は水が存在する環境に左右されますが、重水を含む割合が近いほど、同じ起源を持つ水だと推測することができます。
NASAが5月23日に発表した研究成果によると、SOFIAで撮影したワータネン彗星の赤外線データを分析した結果、ワータネン彗星と地球の水における重水の比率は同じであることがわかりました。これは、地球の水が彗星からもたらされた可能性を示す一つの証拠となります。
彗星を赤外線で捉えることは、たとえば国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」のような地上の天体望遠鏡でも可能です。しかし、地上から重水の割合を調べようとすると、地球の大気中に含まれる水の影響を受けてしまいます。
いっぽう、SOFIAは高度およそ1万2000メートルの成層圏を飛行するので、大気中の水の影響を極力受けずに観測できるのです。
先日も宇宙航空研究開発機構(JAXA)から、初代「はやぶさ」が微粒子を持ち帰った小惑星「イトカワ」の水素と重水素の比率が、地球とほぼ同じであると発表がありました。そのいっぽう、欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」が観測した「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」の場合は水素と重水素の比率が地球とは大きく異なることがすでに判明しており、太陽系の水がたどった歴史の複雑さを物語っています。
地球の水がどのようにしてもたらされたのかを知るためには、もっと多くの天体について調べなければならないようです。
Image credit: NASA/SOFIA
https://www.jpl.nasa.gov/news/news.php?feature=7409
文/松村武宏