2019年5月31日(日本時間)、Squadが開発した宇宙開発シミュレーションゲーム「Kerbal Space Program(カーバル・スペース・プログラム:KSP)」に新機能を追加するダウンロードコンテンツ(DLC)の第2弾「Breaking Ground Expansion」がリリースされました。
今回のDLCでは惑星や衛星の地表における探査活動に新しい要素が追加されている他に、回転サーボやヒンジを使ったまったく新しい乗り物を作成できるようになるなど、これまでのKSPではどこか物足りなかった部分が大幅に強化されています。
……といっても、KSPというゲームそのものを知らないという人も多いでしょう。そこで本記事では、宇宙好きには見逃せないシミュレーションゲームであるKSPの内容を紹介したいと思います。
■そもそもKSPとは?
2015年に正式リリースされたKSPは、地球によく似た架空の惑星「カービン(Kerbin)」を舞台に宇宙開発や天体探査などが行えるシミュレーションゲーム。PC版(Windows/macOS/Linuxに対応)とコンソール版(PlayStation 4/Xbox Oneに対応)がリリースされています。
プレイヤーはカービンに住む「カーバル」たちが設立した宇宙機関「カーバル宇宙センター(KSC)」を運営し、ロケットの開発、人工衛星や惑星探査機の打ち上げ、有人探査ミッションの遂行、宇宙ステーションの建造など、NASAやJAXAといった現実の宇宙機関と同じような活動を自由に繰り広げることができます。
「宇宙機関の運営」と聞くと難しいゲームのように思われるかもしれませんが、ロケットの建造から月着陸まで段階を追って学べる「トレーニング」(いわゆるチュートリアル)が幾つも用意されており、宇宙開発の基本をステップごとに学ぶことができます。インターフェイスや機能を解説したマニュアル「KSPedia」は、ゲーム中にいつでも参照することが可能です。
■ゲームの舞台は太陽系規模のオープンワールド
KSPの舞台は、架空の太陽系まるごと全部。カービンを含む7つの惑星と9つの衛星が、オープンワールドとして再現されています。
地球の月を模した「ムン(Mun)」、火星のような赤い第4惑星「ドゥナ(Duna)」、5つの衛星を従えた巨大な第6惑星「ジュール(Jool)」など、どの天体も魅力的。一般的に遠くの惑星や衛星ほど到達するためのハードルが高いので、最初は一番近い天体であるムンを目標に経験を積んでいき、徐々に遠くの惑星や衛星へと足を伸ばしていくことになるでしょう。
■現実感とゲーム性のバランスが絶妙
KSPの太陽系は現実世界によく似ていますが、ゲーム性を高めるためにデフォルメされている要素も幾つかあります。
たとえば、現実の地球は赤道半径が6378kmで、人工衛星として軌道を周回し続けるために最低限必要な速度「第一宇宙速度」は秒速およそ7.9kmです。ところがKSPのカービンは赤道半径がわずか600km(ただし表面重力は1G)と小さく、第一宇宙速度も秒速およそ2.3kmです。地球の低軌道へ人工衛星や宇宙船を打ち上げるには十数分ほどの時間かかりますが、カービンでは必要な速度が小さいぶん打ち上げにかかる時間も短いため、テンポよくプレイできるようになっています。
また、現実の地球では高度100km(80kmとする場合も)以上が宇宙空間と定義されていますが、実際には100kmを超えても希薄ながら大気が存在します。低い軌道を周回する人工衛星や宇宙ステーションは、こうした薄い大気の抵抗を受けて徐々に速度が落ちてしまうため、国際宇宙ステーション(ISS)では無人貨物船のエンジンを使って速度を回復させる「リブースト」という運用を適宜実施しています。
いっぽうKSPのカービンでは、高度70kmを境に大気がスパッとなくなります。これは大気を持つ他の天体でも同様です。境界となる高度をわずかでも上回っていれば空気抵抗がなくなるので、一度軌道に乗った衛星やステーションが自然と落下してしまうようなことはありません。
こういった「現実感を損なわない程度の適度なデフォルメ」が随所に施されているため、KSPは本格的なシミュレーターというよりむしろ「宇宙開発版マインクラフト」といった感覚で楽しむことができます。
ただし、カーバルたちの生存性に関しては、現実とはかけ離れています。酸素、水、食料、重力など、人間が健康に暮らしていくためにはいろいろな条件が必要ですが、KSPのカーバルたちは宇宙船に何年乗りっぱなしでも平然としています。墜落などの強い衝撃が加わらない限り、たとえ宇宙服ひとつで軌道上に放り出されても死んでしまうことはありません。
現実の世界では必ず考慮しなければならない要素ですが、カーバルたちが「ほぼ不死身」な存在だからこそ、純粋にプレイを楽しめるとも言えるでしょう。
■「Breaking Ground Expansion」の新要素
今回リリースされたDLC「Breaking Ground Expansion」(以下「BGE」)では、主に3つの新要素が追加されています。
1つ目は、展開式の実験装置です。KSPでは宇宙船や航空機などにセンサーや実験装置を搭載してさまざまな場所で科学実験を行うことができますが、BGEでは新たに惑星や衛星の地表に設置するタイプの実験装置が追加されました。
装置を機能させるにはコントロールステーションや発電装置が欠かせず、データをカービンに送信するためのアンテナも必要。運搬には専用の保管パーツが必要となっていて、着陸した場所に展開したり、ローバーで別の場所に移動してから設置したりすることができます。
2つ目は、地表の特徴物です。BGEをインストールすると、岩、結晶、氷火山など、各天体に固有の特徴物が地表に出現するようになります。こうした特徴物からはカーバルがサンプルを回収したり、スキャンアームと呼ばれる観測装置を使ってデータを集めたりすることができます。
3つ目は、ロボティクスです。これまでのKSPには、翼、着陸脚、鉱石採掘ドリルなどのごく一部をのぞいて可動するパーツが存在せず、複雑な仕組みの乗り物を建造することは困難でした。
しかしBGEでは、伸縮する「ピストン」、一定の速度で回転する「ローター」、速度の調整や任意の角度で固定できる「回転サーボ」、関節のように曲がる「ヒンジ」といった可動するパーツと、これらを制御する「ロボティクス・コントローラー」が追加されています。
公式サイトでは4枚のローターを備えたクアッドコプター風の航空機や、サソリやクモに似た多脚ロボットなど、BGEを導入していないKSP本体ではまず作り出せなかったような乗り物が紹介されており、BGEによって拓かれたKSPの新たなる可能性の一端を垣間見ることができます。
■歴史的ミッションが再現できる「Making History Expansion」
また、2018年にリリースされたKSP初のDLCである「Making History Expansion」(以下「MHE」)では、「歴史を作る」というタイトルが示しているように、米ソの宇宙開発競争時代を思い起こさせるようなさまざまなミッションをプレイヤー自身でデザインすることができます。
現実世界初の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンが乗ったボストーク宇宙船風のカプセルや、アポロ計画の月着陸船に似たコクピットなど、歴史的ミッションをビジュアル的にも再現するために用意された数々の追加パーツも見逃せません。
サターンV型ロケット風の大型エンジンや巨大な燃料タンクを組み合わせて、有人月面探査の歴史を(KSPなりにデフォルメされてはいますが)ゲームのなかで再現することも可能です。
■宇宙開発・惑星探査の未来をプレイヤー自身のアイディアで描く楽しさ
もちろん、KSPでは現実の宇宙探査ミッションを再現することだけでなく、自分自身で考案した宇宙船を設計したり、いろいろなモジュールを送り込んで他の惑星上に大きな基地を築いたり、カービンの軌道上に巨大な宇宙ステーションを建造したりできます。
計画はされていても実際に行われたことはない探査計画をKSPの太陽系で実現させたり、一隻の宇宙船で太陽系じゅうを巡るグランドツアーを可能にする多用途宇宙船を独自に設計したり……。プレイヤーを束縛するのは、KSPワールドの物理法則だけ。まだ見ぬ探査や開発を自分自身のアイディアで描き出していく楽しさは格別です。
また、ゲーム性にかかわる物理法則や乗組員の生存性といった現実世界の要素は幾つか省かれているものの、周回軌道への到達、軌道の変更、宇宙船どうしのランデブーやドッキング、他の天体への移動、大気がない天体への安全な着陸などなど、宇宙飛行の基本要素を遊びながら学べてしまうこともKSPの魅力のひとつとなっています。
広大な太陽系を飛び回り、冒険し、ときにはカーバルたちに無茶をさせつつ、宇宙を探査し開拓することの難しさと喜びを存分に味わえる「カーバル・スペース・プログラム」。宇宙開発や惑星探査に興味がある人や、クラフト系のゲームが好きな人なら、1日くらいあっという間に過ぎ去ってしまうほど没頭できるゲームです。
Image credit: Squad
https://www.kerbalspaceprogram.com/
文/松村武宏