アメリカ国立電波天文台は6月5日、プリンストン高等研究所に所属するElena Murchikova氏らのチームによる南米チリの「アルマ望遠鏡」を使った観測で、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」を取り囲む冷たいガスがリング状の構造を形作っている様子を初めて捉えることに成功したと発表しました。
いて座A*は地球からおよそ2万6000光年離れており、質量は太陽の約400万倍。その周囲は、いて座A*の強大な重力に引かれてさまよう恒星やガスで混沌としています。地球から観測しようとすると恒星や星間物質などが集まる銀河円盤に沿って見通さざるをえないため、いて座A*とその周辺の様子はまだはっきりとは把握されていません。
ブラックホールに引き寄せられたガスや塵などの物質は、その周囲に降着円盤と呼ばれる構造を形成します。いて座A*もブラックホールなので降着円盤を伴っていると予想されますが、熱いガス(摂氏およそ1000万度)が放つX線を利用した従来の観測ではいて座A*から0.1光年程度の距離までにしか迫ることができず、ガスが球状に広がるところまでしか捉えられていませんでした。
今回のアルマ望遠鏡を使った観測では、冷たいガスから放たれた弱い電波をキャッチすることで、いて座A*からおよそ0.01光年の距離まで迫り、その周囲を冷たいガスがリング状に回転しながら取り囲んでいる様子を捉えることに成功しました。
こちらの画像は、いて座A*周辺に存在する冷たいガスをアルマ望遠鏡が捉えたもの。冷たいとはいっても、ガスの温度は太陽の表面温度よりも高い摂氏およそ1万度に達しています。
中央の白い十字が、いて座A*の場所を示しています。色はガスの動きを表していて、青いガスは地球に向かうように、赤いガスは地球から遠ざかるように動いています。画像に向かって、いて座A*の右下のガスは手前側へ、左上は向こう側へ動いていることから、冷たいガスがいて座A*を中心に回転運動している様子がわかるというわけです。
地球に最も近い超大質量ブラックホールでありながら、まだまだ謎の多いいて座A*。Murchikova氏は、ガスがいて座A*に付着していく様子を引き続き観測していくとコメントしています。
Image credit: NRAO/AUI/NSF; S. Dagnello
[https://public.nrao.edu/news/2019-alma-ring/]
文/松村武宏