ロシア生まれの資産家ユーリ・ミルナー氏の出資によってスタートした「ブレイクスルー・イニシアチブ」プロジェクトは6月18日、同プロジェクトの一部である「ブレイクスルー・リッスン」のもと、地球外の知的生命体による活動の痕跡がないかを観測した結果を発表しました。
観測結果は研究チームを率いたカリフォルニア大学バークレー校のDanny Price氏らによって論文にまとめられ、6月17日付で発表されています。
観測の対象となったのは、地球から160光年以内にある1327個の恒星です。研究チームはアメリカのウェストバージニア州にある「グリーンバンク天文台」の直径100mの電波望遠鏡と、オーストラリアのニューサウスウェールズ州にある「パークス天文台」の直径64mの電波望遠鏡を使い、文明活動によって生じた痕跡(通信による電波など)を2015年から探し続けています。
自然現象によって生じた電波を除外するために、研究チームは観測される電波の周波数を数十億のチャンネルに分けて分析。観測所の近く(つまり地球上)で生じた電波や、空の一点から届いたものではない電波などを慎重に除外する作業を繰り返しました。
結論を言えば、1327個の恒星から文明活動の痕跡は見つかっていません。しかし、Price氏が「知的生命体がそこにいないという意味ではない」と語るように、現在の観測装置や分析手法では見つけられなかっただけ、という可能性もあります。
論文で発表されたのは電波による観測結果ですが、ブレイクスルー・リッスンではさまざまな痕跡をキャッチするべく、可視光線(人の目に見える光)を使った観測も実施しています。また、今後は64基の電波望遠鏡群から構成される南アフリカの観測施設「MeerKAT(ミーアキャット)」を加えて、観測対象を数千倍に拡大することも計画されています。
さらに、ブレイクスルー・イニシアチブでは、超小型・超軽量の探査機に薄い膜でできた帆を取り付け、レーザー光によって光速の20パーセントまで加速させることで恒星のフライバイ探査を実現する「ブレイクスルー・スターショット」の研究も進められています。
探査目標の「アルファ・ケンタウリ」星系までの距離は4.22光年離れていますが、ブレイクスルー・スターショットの探査機なら20年ほどで到達します。これはもしかすると文明があるかも……そんな痕跡が見つかったとき、地球からの距離によっては恒星系に向けて直接探査機を送り込む、そんな未来が意外とすぐそこまで来ているのかもしれません。
Image Credit: J.Smith, CSIRO
https://breakthroughinitiatives.org/news/25
文/松村武宏