国立天文台は7月8日、山口大学の元木業人氏らの研究チームによる「アルマ望遠鏡」を使った観測によって、大質量原始星の周囲に広がるガスの様子を従来よりも高い解像度で捉えることに成功したと発表しました。
観測対象となったのは、「さそり座」の方向およそ5500光年先にある原始星「G353.273+0.641」(以下「G353」)です。G353は太陽の約10倍の質量を持つ、大きな原始星です。
生まれたばかりの原始星の周囲にはガスの円盤が広がっていますが、これまで観測された大質量原始星はいずれも円盤を横から観測する位置関係にあったため、中心にある原子星周辺の様子を観測することが困難でした。
しかし、今回ターゲットとなったG353は、地球からはガスの円盤を見下ろせる位置関係にあるため、原始星と円盤がどのような関係にあるのかを詳細に観測することができたのです。
観測の結果、G353を取り囲むガス円盤は、半径250天文単位(1天文単位の由来は太陽から地球までの平均距離)にまで広がっている様子が明らかになりました。太陽系最遠の惑星である海王星の公転軌道の8倍に達するほどの距離ですが、過去に観測された大質量原始星の円盤と比べると、これでも小さなほうだとされています。
そのガスが落下していく様子から推測されたG353の年齢はおよそ3000歳で、これまでに見つかった大質量原始星のなかでは最も若いことがわかりました。宇宙のスケールからすれば、今まさに生まれたばかりの赤ちゃん星を観測していることになります。
また、円盤が発する電波の強さは、場所によってばらついていることが判明しました。全体でG353の2~7割程度(つまり太陽の2~7倍ほど)の質量を持つ円盤は不安定な状態にあり、分裂して中心へと落下していきやすい状態にあるようです。
下の画像は、アルマ望遠鏡が実際に撮影したG353周辺の様子。原始星至近の構造を赤、その周囲の円盤を黃、さらに外側へ広がるガスを青で着色しています。
元木氏によると、これまでは「大質量原始星の周囲は小質量原始星と比べて温度が高く、円盤も安定化しやすい」と認識されていたようです。しかし、今回の観測によって判明したG353周辺の様子は小質量原始星の周辺とサイズ以外はとてもよく似ており、大質量原始星でも円盤は不安定になることが確認できたとしています。
今後の課題は、不安定な円盤の行く末にあるようです。分裂した円盤は中心の星へと落下していくのか、それともきょうだい星が誕生して連星系になるのか。たまたま良いポジションにあって観測しやすいG353は、これからどのような姿へと成長していくのでしょうか。
Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Motogi et al.
アルマ望遠鏡が初めて明らかにした、大質量原始星を取り巻くガス円盤の姿
文/松村武宏