巨大なナタデココか寒天のようにも見えるこちらの物体は「エアロゲル」。その見た目から「凍った煙」とも呼ばれるエアロゲルはガラスと同じシリカ(二酸化ケイ素)を材料としており、99パーセントが空気でできていることから極めて軽く、熱や紫外線を遮断します。NASAの火星探査車ではこれまで断熱材としてエアロゲルが利用されてきました。
ハーバード大学は7月15日、同大学のRobin Wordsworth氏らによるエアロゲルに関する研究成果が論文にまとめられ、Nature Astronomyに掲載されたことを発表しました。
今回の研究では火星の地表を実験的に再現し、そこに厚さ2~3cm程度にエアロゲルを敷き詰めました。すると、火星における太陽光を模した照明からの光だけで、エアロゲルに覆われた部分は最大で摂氏65度も温められることがわかりました。これは、火星の地表面を温めて、水の氷を融かすのに十分な温度です。
火星の中緯度地域における冬の気温は夜になると摂氏マイナス90度程度にまで低下するといいますが、今回の研究では、エアロゲルを使うことで火星の厳しい冬を乗り切れる可能性が示唆されています。
NASAのジェット推進研究所(JPL)に所属する地質学者のLaura Kerber氏によれば、火星に基地を建設するには豊富な水と適度な気温がそろっていることが理想的ではあるものの、水の氷は気温が低くなる高い緯度の地域に存在しています。エアロゲルがあれば、こうした水を得やすい地域にも温かい環境を作り出すことができるだろうとしています。
Wordsworth氏は「エアロゲルの断熱効果はサイズが大きくなるほど効率も良くなるはず」と語っており、今後はアルマ望遠鏡がある南米チリのアタカマ砂漠や、南極のマクマードドライバレーといった、寒くて乾燥した過酷な環境での野外実験に進みたいとしています。
2018年には、現在人類が利用できる技術では火星をテラフォーミング(地球化)することはできないという研究結果が発表されました。しかし、エアロゲルを使って地上に小さな温室を作り、訪れた人類が命をつなぐだけの作物を育てることは、不可能ではないのかもしれません。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
https://www.jpl.nasa.gov/news/news.php?feature=7456
https://www.seas.harvard.edu/news/2019/07/material-way-to-make-mars-habitable
文/松村武宏