カナリア諸島にあるカナリア天体物理研究所(IAC)は7月22日、天の川銀河初期の歴史に迫った同研究所のCarme Gallart氏らによる研究内容を紹介しました。研究結果は論文にまとめられ、Nature Astronomyから同日付で発表されています。
2018年11月、オランダ・フローニンゲン大学のAmina Helmi氏らによる「100億年前に天の川銀河と別の銀河が衝突した」とする研究結果が発表されました。欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データを使って天の川銀河の恒星の動きを調べたところ、100億年前の天の川銀河に小さな銀河が衝突した歴史が明らかになったのです。天の川銀河に衝突し吸収された小さな銀河は、研究チームによって「Gaia-Enceladus(ガイア・エンケラドス)」と命名されました。
この昨年発表された研究では、銀河の円盤部を球状に取り囲む「ハロー」に存在する恒星のうち3万個の青い恒星が示した独特な動きから、100億年前の衝突が割り出されました。今回のGallart氏らの研究チームもガイアの観測データを使っていますが、ハローに存在する恒星の動きだけでなく、明るさ、色、それに恒星が発した光を分析することで得られる金属元素の比率も詳しく調べられています。
研究の結果、天の川銀河のハローには100億歳以上の恒星がたしかに存在していることが判明しただけでなく、青い恒星とその他の恒星では金属元素の比率が異なることもわかりました。金属元素の比率の違いは生まれた場所が異なることを示唆するため、天の川銀河のハローには「同じ時代に宇宙の別々の場所で生まれた2種類の恒星が存在する」ことになります。この事実から、恒星の運動によって明らかになった100億年前の銀河衝突が裏付けられたのです。
なお、100億年前に天の川銀河と衝突したガイア・エンケラドスのサイズは大小マゼラン雲と同程度、現在の天の川銀河の10分の1くらいだったと見られています。
ただ、当時は天の川銀河自体も今より小さかったため、ガイア・エンケラドスとの比率は4対1程度でしかなく、衝突は大きな変化をもたらしました。双方の銀河が抱えていたガスが合体後の円盤部に落ち着き、およそ60億年前までは星形成活動の活発な時期が続いたと見られています。
Image Credit: Gabriel Pérez Díaz, SMM (IAC).
http://www.iac.es/divulgacion.php?op1=16&id=1595&lang=en
文/松村武宏