国立天文台は8月6日、同天文台やオランダのデルフト大学、東京大学などの研究者によって構成される国際研究チームが開発した電波観測用の新しい受信機「DESHIMA」が完成し、初の観測に成功したことを発表しました。
DESHIMAは「Deep Spectroscopic High-redshift Mapper」の略で、江戸時代に日本とオランダの交流を支えた出島にもちなんで名付けられました。人の目に見える光(可視光線)ではなく、天体からやってきた電波を受信するための観測装置です。
遠くの銀河までの距離を求めるために、銀河が遠ざかることで光や電波の波長が伸びる赤方偏移(遠ざかる救急車のサイレン音が低く聞こえるのと同様の原理)の大きさが利用されています。赤方偏移の大きさを算出するには、銀河にある特定の原子や分子が放出する電波が指標として観測されます。
ところが、従来の受信機を備えた電波望遠鏡では一度に狭い範囲の電波を受信することしかできなかったため、赤方偏移の大きさを確定するには周波数を変えながら繰り返し観測を続ける必要がありました。
いっぽう、今回開発されたDESHIMAは電子回路の工夫と超電導素子の採用によって、広い周波数の電波を一度に受信できるという特徴を備えています。その性能を確かめるべく2017年10月から11月にかけて、南米チリのアタカマ高地に国立天文台が建設した直径10mの「アステ望遠鏡」において、DESHIMAの試験観測が実施されました。
試験期間中に実施された銀河「VV 114」(地球からおよそ2.9億光年先)の観測では一酸化炭素が放つ電波を受信することに成功し、その赤方偏移の大きさから距離の測定に利用できることが実証されました。また、オリオン座の「オリオン大星雲」に対する観測では、一酸化炭素、シアン化水素、ホルミルイオンが放つそれぞれ異なる周波数の電波を同時に受信することに成功しています。
複数の原子や分子の分布を同時に検出できるDESHIMAを使えば、遠くの銀河までの距離を素早く測定することで、宇宙の3次元地図をより効率的に作成できるようになります。また、短時間で時々刻々と変化する天体や爆発現象などの電波を広帯域で同時に受信することで、新たな知見が得られるかもしれません。
現時点ではたった1画素しかないDESHIMAですが、今後は16画素の「カメラ」に拡張しつつ、受信感度の向上や受信できる周波数帯を拡大することも検討されています。
Image Credit: 国立天文台
https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190806-aste.html
文/松村武宏