国立天文台は9月10日、若い連星が噴出するジェットの観測を通して連星誕生の仕組みに迫った原千穂美氏(NEC/東京大学)らの研究成果を発表しました。
太陽は単独で存在する恒星ですが、空を見渡すと複数の恒星が互いを周回する連星が数多く見つかります。宇宙では一般的な存在である連星ですが、どのように誕生するのかはまだよくわかっていません。
現在検討されているメカニズムには、星の材料となる分子雲(ガスの集まり)が乱流によって分裂して連星が誕生するという「乱流分裂モデル」と、分子雲のなかから誕生した原始星の周りを取り巻くガスの円盤(原始星円盤)が分裂して別の星が誕生するという「円盤分裂モデル」があり、さらにこれらのモデルが複合的に絡み合っているとする説も提唱されています。
実際にどのような仕組みで連星が誕生しているのかを解き明かすには、やはり観測を積み重ねていくしかありません。特に注目されているのが、原始星円盤の傾きです。
提案されているメカニズムのひとつである円盤分裂モデルでは、連星を成す原始星それぞれが持つ円盤の傾きが揃いやすいとされてきました。若い連星の原始星円盤をたくさん観測してデータを集めれば、どちらのモデル(あるいは複合的なモデル)がより現実を説明できるかがわかるため、それだけ連星誕生の仕組みに迫れるというわけです。
■原始星円盤の傾きを示す分子流の向きが70度も違っていた今回、原氏らの研究チームは「アルマ」望遠鏡を使い、へびつかい座の星形成領域にある双子の原始星「VLA1623A」を高解像度で観測し、原始星から噴き出す分子流(高速で噴き出すガスの流れ)を詳細に調べました。
分子流は原始星円盤の回転軸に沿った方向、つまり円盤に対して上下へ垂直に噴き出すことから、分子流を観測すれば原始星円盤の傾きを知ることができます。観測の結果、VLA1623Aを構成する2つの原始星から噴き出す分子流は向きが揃っておらず、その角度はおよそ70度も違っていることがわかりました。
VLA1623Aの双子原始星のように間隔が狭い連星で向きが不揃いな分子流が見つかったのは、今回が初めてです。これまで間隔が狭い連星は円盤の傾き(すなわち分子流の向き)が揃いやすい円盤分裂モデルで誕生したと考えられてきましたが、今回の観測結果はその予測を覆す可能性があります。
ただし発表によると、最新の研究成果を取り入れた円盤分裂モデルでは、条件によって円盤の傾きが揃わない可能性も見えてきたとされています。研究チームは、さらに多くの観測を通して連星形成のメカニズムを解き明かしたいとしています。
Image Credit: 国立天文台
https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190910-alma-kawabe.html
文/松村武宏