アメリカのメリーランド大学は9月18日、カリフォルニア工科大学の光学観測装置「ZTF(Zwicky Transient Facility)」を用いた観測によって、それまで穏やかだった銀河が急速に活性化する様子を捉えたSara Frederick氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、同日付でThe Astrophysical Journalに掲載されています。
銀河にはさまざまな分類方法があります。最も馴染み深いのは「渦巻銀河」や「楕円銀河」といった銀河の形態にもとづいた分類ですが、超大質量ブラックホールが存在するとされる銀河中心核(銀河核)の活動度や、観測される電磁波(光、X線、電波など)に応じた分類もあります。
「LINER(low-ionization nuclear emission-line regio:低電離中心核輝線領域、ライナー)」と呼ばれる銀河核も、こうした分類に用いられる銀河の特徴のひとつです。非常に活発な銀河核として知られる「クエーサー」ほどではありませんが、LINERも少し明るく輝いており、その光からは何らかの仕組みで原子が電離(イオン化)していることがわかっています。あえて表現すれば、LINERを持つ銀河(ライナー銀河)は、おとなしい銀河よりも少しだけ活動的な銀河です。
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ライナー銀河の数は多く、天の川銀河の近くでは全体の3分の1を占めるほどありふれた存在なのですが、明るく見える理由については議論が続いています。他の活動的な銀河のように銀河核(すなわち超大質量ブラックホール)の活動が原因とする説もあれば、銀河核ではなくその外側にある星形成領域に由来するという説もあります。
今回Frederick氏らの研究チームは、2018年3月からの9か月間に、6つのライナー銀河において銀河核の活動が急速に活性化する様子を偶然発見しました。当初はブラックホールに近付きすぎた恒星が強い潮汐力で破壊された様子を観測したのかと考えられましたが、実際には「活動の弱い状態からクエーサーにまで活性化するような、銀河核の未知の活動」(Frederick氏)が捉えられていたのです。
■クエーサーが誕生する様子を観測できるかもしれない従来の理論では、休眠状態にあった銀河核がクエーサーとなるには数千年を要すると考えられてきました。しかし、研究に参加したSuvi Gezari氏が語るように、今回の観測結果は銀河核が「極めて急速に活性化する可能性」を示唆しています。
ただし、クエーサーは銀河核よりも離れたところにある塵やガスを照らすほどに強力ですが、今回観測された6つの銀河では、まだ銀河核の周辺にしか活動の影響が及んでいません。研究チームは、今後は銀河核の活動の影響が周辺へと徐々に広がっていくのではないかと予想しています。
「人間が認識できるタイムスケールで銀河が変化するとは驚きです」と語るFrederick氏らは、今後は銀河核が理論上の予想をはるかに上回る短期間で活性化する仕組みの解明に挑みたいとしています。
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Image Credit: ESA/Hubble, NASA and S. Smartt ; NASA/JPL-Caltech
source: umd
文/松村武宏