アメリカのコロンビア大学は9月16日、不規則な明るさの変化が議論を呼んだ恒星「KIC 8462852」の謎に迫ったBrian Metzger氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、王立天文学会月報に掲載されています。
KIC 8462852は「はくちょう座」の方向、地球からおよそ1400光年先にある恒星です。明るさが不規則に変化することで知られており、その様子を論文で報告したTabetha Boyajian氏にちなんで「Tabby’s star(タビーの星)」や「Boyajian’s star(ボヤジアンの星)」とも呼ばれています。
タビーの星はNASAの「ケプラー」宇宙望遠鏡が系外惑星を求めて観測を実施したエリアに存在していたのですが、ケプラーによる4年間の観測期間を通して、その明るさは暗くなり続けました。それも、3年間は一定のペースで1パーセント暗くなっていったのに、最後の1年間では一気に2パーセント暗くなるという、不可解な減光を示したのです。
系外惑星が主星の手前を横切る「トランジット」現象を起こすと、主星の明るさはわずかに減りますが、系外惑星が通り過ぎてしまえば明るさはもとに戻ります。暗くなるタイミングは周期的ですし、その度合いは毎回同じくらい。トランジットを何度か観測することで系外惑星の存在を知ることができるだけでなく、そのサイズや大気の組成といった情報を得ることもできます。
しかし、タビーの星の減光はこのパターンを示しませんでした。それどころか、過去の観測データを精査したところ、タビーの星が暗くなる度合いは0.5から22パーセントの間で変動していたことがわかったのです。
主星の明るさを5分の1も暗くさせる系外惑星というのは考えにくいことから、この不可思議な減光を説明するために、「塵の雲」や「多数の彗星」などさまざまな仮説が立てられてきました。そのなかには、恒星全体を人工的に覆い隠し、放射されるエネルギーを余さず利用する巨大建造物「ダイソン球」が存在するのではないかとするものまでありました。
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■放り出された系外衛星とその破片が原因か?今回Metzger氏らの研究チームは、タビーの星が減光する原因を「系外衛星」に求めました。それによると、かつてタビーの星には少なくとも1つの系外惑星が存在していたものの、タビーの星との重力相互作用によって軌道が変化していき、やがて破壊され飲み込まれてしまったとされています。
このとき、系外惑星を巡っていた系外衛星が破壊を生き延び、新たな惑星となってタビーの星を公転し始めました。研究チームのシミュレーションによると、系外惑星の破壊に直面した系外衛星のうち10パーセントは、こうして一時的に生き延びるといいます。
ただ、惑星になった系外衛星の軌道は細長い楕円形を描くため、タビーの星に接近すると表面の物質が揮発して、まるで彗星のように塵とガスを放出します。細かな物質はタビーの星の放射によって散り散りになってしまいますが、ある程度大きめの物質は軌道に残り、徐々に広がって細長い円盤のようになっていくと予想されています。
つまり、タビーの星で観測される不可解な減光は、放り出された系外衛星に由来する楕円形の円盤が原因だというのです。研究チームは、「不規則な減光をもたらす天体があるとすれば、その軌道はかなりつぶれた楕円形をしているはずだ」とした過去の研究で示された結論とも矛盾しないとしています。
研究に参加したMartinez氏は、タビーの星のように異常な明るさの変化を示す恒星が他にも存在する可能性を示唆しています。Metzger氏は、今後は「系外惑星の崩壊を生き延びた系外衛星がまだ存在している恒星」をさらに発見するとともに、系外衛星そのものの研究を進めたいとしています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
source: columbia
文/松村武宏