NASAは9月27日、数億光年先の銀河で恒星がブラックホールに引き裂かれる様子を、系外惑星探査衛星「TESS」がキャッチしたことを明らかにしました。
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■天の川銀河での発生確率は1万年~10万年に1回この現象が観測されたのは、地球からおよそ3億7500万光年先にある銀河「2MASX J07001137-6602251」の中心部。今年の1月29日、超新星を発見するために20基の天体望遠鏡で全天を観測しているネットワーク「ASAS-SN」によって、最初に増光現象が確認されました。
発生された場所は、当時TESSが観測を行っていたエリアの中でした。TESSは太陽系外惑星を発見するべく、空の同じ場所を27日間ずっと観測し続けます。そのため、TESSの観測データは、超新星爆発のように短期間で明るさが変化する現象を詳細に調べる上でも役立ちます。
データを解析したところ、ASAS-SNが増光をキャッチするよりも早い1月21日には、TESSによって明るさの変化が捉えられていました。その様子は超新星爆発のように突然明るくなるのではなく、徐々に明るさを増していることから、銀河中心部の超大質量ブラックホールによって恒星が引き裂かれ、ブラックホールの周囲を取り巻く降着円盤になる過程を観測したものと判断されたのです。
こうした現象は、天の川銀河ほどの大きさの銀河では1万年から10万年に1回の頻度で起こると考えられていて、過去の観測例も40ほどしかありません。超新星爆発が起こるのは100年に1回とされていますから、その100分の1から1000分の1しか起こらないレアな現象なのです。
■引き裂かれる原理は潮の満ち引きと同じ恒星を引き裂いたのは、超大質量ブラックホールがもたらす潮汐力です。潮汐力は地球でも潮の満ち引きをもたらすものとしておなじみですが、太陽の数百万倍もの重さを持つ超大質量ブラックホールの周囲では、近付いた天体が引き伸ばされて破壊されてしまうほどの強さになります。潮汐力によって天体が壊される現象は、潮汐破壊と呼ばれます。
こちらはNASAが今回の観測内容を紹介するために作成した動画。10秒目あたりから、ブラックホールに接近した恒星が潮汐破壊され、降着円盤に至る様子が描かれています。
今回観測された潮汐破壊をもたらした超大質量ブラックホールの重さは、太陽の600万倍と推定されています。いっぽう、破壊された恒星は太陽と同じくらいの大きさだったとみられています。
ガンマ線バースト観測衛星「スウィフト」の紫外線観測データによると、破壊された恒星の残骸の温度は、数日間で摂氏4万度から2万度へと急速に低下していました。研究を主導したThomas Holoien氏によると、こうした早期の温度低下が潮汐破壊で確認されたのは初めてのことだといいます。
また、NASAでスウィフトの観測に携わるS. Bradley Cenko氏は「今回のように早い段階からの観測は、潮汐破壊をめぐる謎の答えを得るのに役立つだろう」とコメントしています。
Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
Source: NASA
文/松村武宏