地球から115億光年先の宇宙に、銀河と銀河をつなぐ水素ガスの大規模な構造が見つかりました。研究に参加した理化学研究所をはじめ、国立天文台、W.M.ケック天文台などから10月3日付で発表されています。
初期の宇宙では、天の川銀河の数百~数千倍というペースで星を形成する銀河や、その中心で急速に成長する巨大なブラックホールが存在していたことが、過去の研究で明らかになっています。こうした星の誕生やブラックホールの成長に欠かせないのが、宇宙で最もありふれた元素である水素を主成分としたガスの存在です。
理論にもとづくシミュレーションでは、水素ガスがクモの巣のようにつながったネットワーク「宇宙網」の一部でガスが集まり、活発に星を生み出す銀河や、太陽の1億倍も重いような超大質量ブラックホールを形成していったと予想されていました。今回発見された大規模構造こそが、この理論的に予想されていた水素ガスの宇宙網なのです。
研究チームは「みずがめ座」の方向およそ115億光年先にある原始銀河団「SSA22」を、宇宙網の捜索対象に選定。この銀河団を国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」で観測したところ、水素ガスから発せられたかすかな光をキャッチしました。
この結果をもとにヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」で追加観測を実施した結果、宇宙網を構成する水素ガスの分布を把握することに成功したのです。宇宙網は400万光年ほどの広がりを持っており、網の結び目のようにガスが交差するところで銀河やブラックホールの成長が促されたとみられています。
今回の観測結果によって、シミュレーションとそのもとになった理論が裏付けられました。今後は、成長する銀河やブラックホールと宇宙網との関係をより詳細に調べることで、初期宇宙の姿にさらに迫ることが期待されています。
もとも水素ガスには、銀河などからの光を浴びると紫外線で発光する性質があります。ところが、今回観測された銀河団のように遠くの宇宙から届く光は、宇宙の膨張につられて波長が伸びる「赤方偏移」の影響を受けてしまいます。今回の観測では、115億光年先で宇宙網を構成する水素ガスから発せられた紫外線の波長が伸びて可視光線になったものが、すばる望遠鏡によって捉えられました。
また、今回の研究ではチリの「アルマ望遠鏡」を用いた電波(ミリ波)の観測などによって、星形成活動の活発な銀河や活発に活動するブラックホールの位置が特定されています。近年ではこうした複数の巨大望遠鏡や電波望遠鏡群による多波長(可視光線、電波、X線など、さまざまな波長)の観測が、さまざまな研究を支えています。
Image: 理化学研究所
Source: 理化学研究所 – 国立天文台 – W.M.ケック天文台
文/松村武宏