東京大学は10月4日、同大学の宇宙線研究所が建設を進めてきた大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」が完成したことを発表しました。
KAGRAが建設されたのは、富山県との県境に近い岐阜県飛騨市神岡町の山中にある神岡鉱山の跡地。ここは、ニュートリノの検出を目的に建設された観測装置「スーパーカミオカンデ」と同じ場所にあたります。
KAGRAはアメリカの「LIGO」、欧州の「Virgo」に次ぐ、世界でも3番目の重力波望遠鏡です。現在LIGOとVirgoは2019年4月に始まった1年間の共同観測体制に入っていますが、KAGRAも2019年内に合流し、共同で重力波の観測を実施する予定です。
■サファイアでできた「合わせ鏡」を使って重力波を検出重力波は時空を伝わる波なので、重力波の強さに応じて時空にひずみが生じます。このひずみを検出すれば、その原因である重力波を観測することができるのです。
重力波を検出するために、KAGRAではサファイアの鏡を使った「合わせ鏡」を使います。鏡と鏡の間隔は3kmも離れていて、L字型を描くように掘られたトンネルの各辺に1組ずつ、合計2組4枚のサファイア鏡が設置されています。
観測が始まると、合わせ鏡には2手に分けられたレーザー光が照射されます。2つの合わせ鏡を往復してきたレーザー光の波形を重ねると、重力波が来ていないときは互いに打ち消し合うように調整されています。
ところが重力波が到来すると、時空のひずみによって鏡の位置がわずかに変化します。すると、反射するレーザー光の移動距離も2つの合わせ鏡でそれぞれ変化するため、波形が打ち消されずに光の干渉が生じます。この干渉光から、重力波を検出することができるのです(レーザー光の干渉を利用することから「レーザー干渉計」と呼ばれています)。
なお、合わせ鏡のなかでレーザー光を1往復(6km相当)させただけでは重力波を検出するには精度が足りないため、KAGRAではおよそ1000回(6000km相当)も往復させることで、時空のひずみを検出します。
■振動をおさえるための答えのひとつが「地下に建設」重力波による時空のひずみは本当にわずかなもので、宇宙線研究所では「地球と太陽のあいだの距離が、水素原子ひとつぶん変化する程度」と紹介しているほどです。ここまで小さな変化を捉えるために、KAGRAでは2つの工夫をこらしています。
1つは、観測装置を地下に建設すること。地上では人間の活動にともなう振動だけでなく、風や波といった自然現象による振動も観測に影響を及ぼします。KAGRAでは合わせ鏡の装置(レーザー干渉計)を地下に設置したことで、地上に比べて振動の影響を100分の1から1000分の1にまで減らしています。
もう1つは、鏡の温度を下げること。物質を形作る原子は常に振動(熱振動)していますが、重力波望遠鏡では鏡を構成する物質の振動さえも観測に影響を及ぼしかねません。そこで、鏡の材料に熱伝導率が高いサファイアを選び、これを摂氏マイナス253度まで冷やすことで、熱による鏡の振動を抑えています。技術を凝らしたKAGRAによる重力波の初検出が楽しみです。
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Image Credit: 東京大学宇宙線研究所
Source: 東京大学 – KAGRA
文/松村武宏