NASAの火星探査車「マーズ・サイエンス・ラボラトリー(MSL)」、通称「キュリオシティ」から届いた岩の写真。無数のひびわれに覆われたこの岩は、キュリオシティが探査活動を行ったその場所に、かつて水がたたえられていたことを示しています。
■クレーターの縁から流れ落ちた水によって堆積した泥の層キュリオシティは現在、火星の赤道付近にあるゲール・クレーター(直径およそ150km)のなかで写真を撮ったり、地表から採取したサンプルの分析を行ったりしています。「Old Soaker(オールド・ソエーカー)」と呼ばれるこの岩も、ゲール・クレーターの内部で見つかりました。
岩の名前は、アメリカのメイン州沖合に浮かぶ島から名付けられています。画像の幅は1.2mほどに相当しますが、周囲からブロック状に分割された岩の表面にはさらに細かなひび割れによって、数センチサイズの多角形の模様がびっしりと生じているのがわかります。亀裂に沿って地下からしみ込んできた硫酸カルシウム(石膏の主成分)の鉱脈が、岩のところどころで白いすじを描いているのも見えます。
30億年以上前のゲール・クレーターの内部には、クレーターの外輪山から流れ込む小川の水が集まって湖ができていたようです。湖の底には水によって運ばれた泥が徐々に堆積していったとみられており、写真の岩もこうして形成された堆積岩だと考えられています。
やがて火星が乾燥した気候に移り変わっていくにつれて、クレーター内部の環境も湿った状態と乾いた状態を何度も繰り返すようになり、堆積岩の表面がひび割れていきました。ひび割れは一度に形成されたのではなく、泥が大きく乾いて割れたところに再び水が流れ込んだり、地下水の影響によって細かなひび割れができたりと、複雑な歴史を辿ったようです。
■火星はいつから乾ききってしまったのか?乾燥と湿潤の繰り返しは数百万年に渡って続いたと考えられていますが、どこかの時点で火星は乾燥しきってしまい、凍った砂漠の大地が広がる星になってしまいました。NASAのジェット推進研究所(JPL)の研究者たちは、その時期がいつだったのかを明らかにしたいと考えています。
キュリオシティはゲール・クレーターを移動しながら探査を続けています。それはまるで、火星が湿った環境だった頃から現在のように乾いた環境へと移り変わっていく様子をなぞるような旅路です。
テネシー大学で堆積岩の研究を行っているChris Fedo氏は「すでに深い湖があった時代(の岩)を後にしたのかもしれない」と語っています。火星の歴史に迫るキュリオシティの活躍によって、火星が今のような姿になった決定的な時期が明らかになるかもしれません。
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Image: NASA/JPL-Caltech/MSSS
Source: NASA
文/松村武宏