この宇宙の銀河には、人の目や電波・X線などで観測できる天体の他に、重力でしかその存在を検出できない暗黒物質(ダークマター)も集まっていることが知られています。暗黒物質は銀河の質量の大半を占めるほど重要な存在なのですが、この暗黒物質が見当たらない銀河も見つかっています。
■淡すぎて別の銀河が透けて見える「銀河」画像は、かみのけ座の方向にある銀河「NGC 1052-DF2」(以下「DF2」)の姿。中央付近にある星の集まりがDF2です。銀河にしてはあまりにも淡いため、向こう側にある別の銀河がDF2を通して透けて見えているのがわかります。
暗黒物質が存在しないとされているのは画像のDF2と、「NGC 1052-DF4」(以下「DF4」)という2つの銀河です。銀河と呼ばれてはいますが、どちらも腕と呼ばれる渦巻き構造や中央部のバルジのような、はっきりとした構造は確認できません。
星の数が天の川銀河の100分の1から1000分の1と少ないにもかかわらず、サイズが差し渡し1万光年ほどにまで大きく広がっているため、他の銀河と比べて輝度が乏しく、全体的に淡く見えるのが特徴です。イェール大学のPieter van Dokkum氏らは、これらの銀河に対して新しく「ultra diffuse galaxies」、日本語では「超淡銀河」(※)という分類を提唱しています。
(※…国立天文台の2015年度年次報告より)
■「暗黒物質が存在しない銀河」その意味するところは?銀河は、初期の宇宙であちこちに集まった暗黒物質のハロー(ダークハロー)に引き寄せられたガスのなかから恒星が誕生したことがきっかけとなり、その形成が始まったとされています。
しかし、超淡銀河のDF2やDF4には、ガスが集まる呼び水となるべき暗黒物質が存在しません。星々が誕生するのに不可欠である濃いガスの集まりは存在していたはずですが、それがどうやって集まったのかは未知のままです。
そもそも「暗黒物質が存在しない銀河」という観測結果が誤りなのではないかとする異議も唱えられていますが、DF4に関する研究結果を前述のDokkum氏らとともにまとめたShany Danieli氏は、確かな証拠が集まってきたことから、そろそろ観測結果をめぐる議論から離れて「これらの銀河が何を意味するのかという議論に移りたい」とコメントしています。
日本天文学会が編纂している「天文学辞典」では、銀河について『銀河と球状星団の違いは、ダークマターを含むかどうかにある』としています。DF2やDF4における暗黒物質の不在は、これらの天体が果たして銀河と呼べるのか、はたまた「銀河とは何か」といった議論にまで発展するのかもしれません。
Image Credit: NASA, ESA, and P. van Dokkum (Yale University)
Source: YaleNews – Astronomy.com – Spacetelescope
文/松村武宏